著者の娘は、心臓の難病を患い、19歳で亡くなった。著者は、そのあまりに辛いできごとを契機に、「よく生きることとは何か?」「生きる価値のある人生とは何か?」という問いを抱くようになった。ミシガン大学の教授であり、公衆衛生分野の科学者である著者は、自然のなりゆきとして、仕事で出会う、生きがいのある人生を送る人に目がいくようになった。そして、生きる目的こそが人生を生きる価値のあるものにしているという考えに至った。
「生きる目的」という哲学的なテーマは、近年、科学的な手法を使って研究されている。最近の調査研究によると、生きる目的を強く持つ人は、生きる目的が薄弱な人より平均して長生きする。さらに、心臓発作や脳卒中のリスクが抑えられ、アルツハイマー病のリスクは半分以上も低減する。薬物やアルコールの依存から脱却する見込みが倍増することも判明しているという。「生きる目的」はたいへんな薬のようであるが、薬ではなく、代金もかからない、「目的」だ。
では、どうすればこのすばらしい、「生きる目的」は見つかるのか。
アリストテレスは、人間活動の究極の目的を「幸福」と結論づけた。彼は、「幸福(エウダイモニア)」を、エゴイスティックな欲求を超越した真の自己から得られるものとし、自己高揚的で短期的な欲求である「快楽(へドニア)」と切り離して区別している。
10年ほど前から、科学者はわたしたちの健康や幸せ感(ウェルビーイング)における快楽と幸福の関係性を研究しはじめた。哲学における二種類の幸せ感は、分子生理学のレベルでははっきりとした対比が見られている。快楽のスケールで点数の高い人ほど、炎症性の遺伝子の発現が起きやすく、抗体や抗ウイルス物質をつくりだす遺伝子の発現が少なかった。一方、幸福のスケールで点数の高い人はその逆のパターンだった。
別の研究では、快楽を得た若者が不安感や病気の症状を多く伝えたのに対し、幸福を得た若者は、生きる満足感や高い自己評価、ポジティブな感情を多く伝えたことが判明している。さらに、快楽と幸福の二つの幸せ感は、感情レベルだけでなく、脳の動きからも異なっていること、それぞれが異なる影響を生み出すことが裏付けられている。科学的にも、幸福と快楽は区別できるものなのだ。
エウダイモニアという言葉は、真の自己(ダイモン)と調和しているという意味を含んでいる。つまり、人間活動の究極の目的、「幸福(エウダイモニア)」には、内なる自己との対話が必要なのだ。
内なる自己との対話においては、「自分にとって大事なものは何か?」「何に価値を置くのか?」と問いかけを発することになる。そして、その価値が生きる目的を構成していくことになる。
生きる目的はそれぞれの人間で異なる。社会全体に意味ある貢献をし、世界の食糧不足を緩和する、という農業従事者ゲーリー・ラム。宇宙をもう少し深く理解しようと努め、その過程を楽しむ、という理論数学者ロナルド・グラハム。全世界をあっと言わせること、というアップル共同創業者スティーブ・ジョブズ。どの生きる目的も、それぞれの価値観が生み出したものだ。最高の目的を手に入れることは、自分が最も大事にしている価値を見出すことと関連している。
本書では、そうしたことをふまえて、生きる目的を見つけるための6つのステップを紹介している。
ステップ1:自分にとって重要な本質的価値を3つ選ぶ。それぞれの価値が、なぜ自分にとって大事なのか、できれば紙に書き出して考える。
3,400冊以上の要約が楽しめる