効率的な分析に基づく意思決定「HEAD」の中核をなすのは、思考の安心領域(コンフォート・ゾーン)から飛び出し、逆から考えることである。それはまるで、横書きの文章を左から右へ読むのが自然なのに、あえて右から左へ目を走らせるようなものだ。
本書の目標は、複雑な問題をより処理しやすくし、分析結果をもとによりよい意思決定ができるようにすることである。アナリストの目標は、膨大なデータを専門的にまとめ上げることではなく、意思決定者がよりよい意思決定をできるようデータを加工することだ。となると、手持ちのデータや情報から考えるのではなく、意思決定者である自分や顧客、上司が「何を知る必要があるか」という問いから始めなければならない。
著者がこの重要性を痛感したのは2003年、CIAのテロ対策センターに舞い込む脅威レポートの評価に関わっていたときのことである。著者は当時のCIA長官から、大統領へのブリーフィングを任じられた。それは、アメリカが直面する国家安全保障上の最重要課題について極秘で説明する場だ。そこで、懸案事項リストのトップに躍り出た脅威に関するレポートについて話すこととなったのだ。著者は、この脅威についての情報をどう入手し、なぜ信じるに至ったかを詳しく伝えるべきだと考えた。
しかし、ブリーフィング当日、脅威の詳細を手短にわかりやすく報告したのち、それが見当違いだったと気づいた。大統領は著者にこう尋ねた。「それを受けてわれわれは何をすればいいのか?」つまり、大統領にとって問題だったのは、脅威の流入を詳しく理解することではなく、その脅威にどう対応するかを決めることだった。著者はすぐに、過去の重大な脅威と比べて今回の脅威をどう捉えるべきかという文脈を添えることで、大統領の決断に役立つよう、説明を修正できた。
アナリストが犯しがちな誤りは、情報を正確かつわかりやすく伝えれば、受け手はそれをもとに、どう行動すべきかを判断できると思うことである。今回のケースでは、大統領が脅威への対策についてよい決断を下すにあたり、何が役に立つかという、正しい問いを立てることがアナリストに求められていたといえる。このように、意思決定における利点をもたらせるかどうかが分析のキーとなる。
自分の専門分野について問われたとき、人は即答したがる傾向にある。しかし、それでは言いそびれたことや、もう少し熟考してから発言すればはるかに有益な回答ができたことに、後から気づくのは避けられない。HEADプロセスでは、ゆっくりした思考を中心に据え、最初に時間をたっぷりとってカギとなる問いを考え抜く。即答という楽な方法をとらずに、流れに逆らうことにより、分析で得られる見返りは大きくなる。
例えば知らない土地に引っ越すとき、まず不動産サイトを調べたくなるかもしれない。しかし、本来大事なのは、新しい町で新生活を迎えるにあたり、どのような生活を経験したいと思っているのか、という問いを立てることだ。
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