捨てられる銀行2 非産運用

未読
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出版社
出版日
2017年04月18日
評点
総合
4.0
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
4.5
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おすすめポイント

現在、金融庁の森信親長官の下で進められている金融改革には、2本の柱がある。ひとつは、「企業・経済の持続的成長」であり、もうひとつが、本書で取り上げられているテーマ、「国民の資産形成」だ。前者の「企業・経済の持続的成長」というテーマは、著者の前著『捨てられる銀行』で扱われている。

タイトルに「2」とあるので、前著を読まなければ本書を読めないのではと思う読者もいらっしゃるかもしれない。だが、どちらを先に読んでも全く問題ないのでご安心されたい。

少子高齢化が進む日本に残された貴重な成長産業は、個人の金融資産を着実に資産運用で増やしていくことである。しかし、銀行窓口では、真に顧客の資産の成長を考えた運用提案はされていない、と著者は言う。系列会社や取引先企業に利益をもたらす投資信託や保険商品が、優先的に販売されているというのだ。個人資産の運用は、まったく「悲惨」で、「非産」な状況にある。

この現状にメスを入れるため、金融庁が打ち出しているキーワードが、「真に顧客本位の業務運営」という定義で使われる「フィデューシャリー・デューティー(Fiduciary Duty、受託者責任)」である。

本書は、日本の資産運用サービスのお粗末な現状を糺しつつ、森長官の思想そのものに肉迫し、金融庁の方針に迫ってゆく。各国でフィデューシャリー・デューティーがどのように実現されているのかというレポートも豊富だ。ごく一般のビジネスパーソンも、金融関係者も、本書を読むことで最近の資産運用業界の動向をつかむことができるだろう。

ライター画像
熊倉沙希子

著者

橋本 卓典(はしもと たくのり)
共同通信社経済部記者。一九七五年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。二〇〇六年共同通信社入社。経済部記者として流通、証券、大手銀行、金融庁を担当。〇九年から二年間、広島支局に勤務。金融を軸足に幅広い経済ニュースを追う。一五年から二度目の金融庁担当、一六年から資産運用業界も担当し金融を中心に取材。著書『捨てられる銀行』(講談社現代新書)は十三万部超のベストセラーに。本書は森金融庁改革スクープレポートの第二弾となる。

本書の要点

  • 要点
    1
    2016年度の金融行政方針には、顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)を金融機関に求めることが示されていた。
  • 要点
    2
    日本の資産運用の現状は、手数料は高く、収益率はマイナスで、惨憺たるものだ。金融機関は、資産運用の機能を果たす系列会社と結託して、手数料収入を得てきたことを疑われている。
  • 要点
    3
    真のフィデューシャリー・デューティーとは、受託者は受益者第一で行動し、利益相反が疑われる立場に身をおかないという厳格なものだ。われわれ顧客がそれを実行できている金融機関の商品を選んでいくことで、金融業界は健全化するだろう。

要約

【必読ポイント】動き出した資産運用改革

資産運用を根本から問い直す
utah778/iStock/Thinkstock

銀行が近年力を入れて窓口で販売してきたのが、貯蓄性保険商品として分類される「一時払い終身保険」だ。顧客は、保険料をまとめて一括払いし、10年など、一定期間経過後解約し、少し増えた返戻金を受け取る。これを、銀行窓口では例えば「0・5%程度の利回りの保険商品」と説明していたのだが、じつは、生命保険会社はもっと利回りよく顧客資金を運用していた。しかし、その運用利益を顧客に還元するのではなく、この例では0・5%の利回りぶんだけを顧客に返戻し、残りは銀行へ販売手数料や諸経費として払っていた。

顧客としては、国債などの、より利回りのよい金融商品を選び、加えて必要なぶんだけをカバーする安価な保険商品を選ぶ道もあったはずだ。しかし、そのような、顧客の利益を考えた提案はなされず、銀行は自分たちの利益を優先して売りたいものを売ってきた。

森金融庁長官は、この問題を重く受けとめ、法制度のあり方などを話し合う金融審議会でも貯蓄性保険商品が取り上げられることになった。森は、金融商品をどのように顧客に販売し、資産形成を促すのか、根本的に問い直すことを決めていた。

森メモと金融行政方針

2016年10月に金融行政方針が発表された。著者は、そのひと月前に森が金融庁幹部らに配布したメモを紹介し、真意を探る。

そのメモには、金融機関の先にある「企業・経済の成長」や「国民の資産形成」を宣言した2015年度の方針は、2016年度でも「不変」だと断言されている。

森の問題意識は、メモに書かれた、「目先の利益にこだわり、顧客本位が言葉だけになっていないか?」という一文に現れている。金融機関が、真に顧客本位のサービスを提供できれば、顧客の信頼に基づく経営基盤が育まれ、結果として金融機関は環境の激変にも耐えうる健全性を備えるはずだ、というのが森の考えだ。金融機関が行っている取り組みを開示させ、パブリック・プレッシャーを機能させれば、自分本位の金融機関は顧客から選ばれなくなっていくだろう、と森は見通していた。

そして発表された金融行政方針では、現状の課題が列記され、それらへの対策として3つの方向性が示された。家計における長期・積み立て・分散投資の促進/金融機関等による顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)の確立と定着/機関投資家が投資先の企業と建設的な会話を行うよう促進、という方針である。

しかし、そもそも、金融機関を目先の収益獲得に追い立ててきたのは金融庁ではないか。かつての金融庁が金融機関に「健全性」を求め、その「健全性」が企業の成長や個人顧客の資産形成のためになっていなくても関知しなかったことが、現在の金融業界をつくってしまったのではないか。

金融庁は、じつは、このことを「当局の失敗」として、同年9月の金融モニタリング有識者会議の資料に明記した。加えて、外部の専門家に批判と議論を求める姿勢で会議に挑んだ。この姿勢からは、見過ごされてきた課題に取り組み、フィデューシャリー・デューティーを本気で金融機関に求めていくという金融庁の意志が見てとれる。

資産運用改革の原点
G0d4ather/iStock/Thinkstock

森が資産運用の改革になぜ強い意志をもっているのかは、彼が産業再生機構の立ち上げの仕事で、ニューヨーク総領事館に籍を置いていた時代にさかのぼると、見えてくる。

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要約公開日 2017.07.03
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