リタイアの心理学

定年の後をしあわせに生きる

未読
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定年の後をしあわせに生きる
出版社
日経ナショナルジオグラフィック社

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出版日
2017年01月27日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

現在、日本は4人に1人が高齢者という時代を迎えている。医療の進歩とともに、平均寿命は過去最高記録を更新しており、高齢者と呼ばれる人たちでも、現役で働き続けられるほど元気なケースが多い。一方、定年退職年齢の下限は60歳となっており、早く退職する道を選んだ人は、退職後約30年近くの期間を引退者として生きることになるかもしれない。今までなら引退生活は「お迎えが来るまで、のんびりと余暇を楽しむ時間」とされていたが、これからの時代はそうではなく、引退生活は第二の人生と言っても過言ではない。

本書は、アメリカの心理学者である著者が最新の研究成果をもとに、これから現役を引退する人のために実用的なアドバイスをふんだんに盛り込んだ一冊である。フルカラーで、イラストやデータ、図を多用しながら、現役引退の流れを段階ごとに解説している。これから現役引退を見据える人々の悩みや不安を解決し、新しい自分を創造する方法を指南してくれるだろう。

引退後、克服しなければならない課題は存在するものの、決して悲観的な生活が待っているわけではない。むしろ、心の持ちようと工夫次第では、バラ色の生活が待っているといえる。こうした前向きな側面を増やすためにも、早めに引退後の人生設計を行い、精神面での準備を進めておくことが大切だ。本書は刺激と生きがいに満ちた第二の人生を送るための、信頼できるガイドブックとなってくれるにちがいない。

ライター画像
山下あすみ

著者

ケネス・S・シュルツ博士(Kenneth S. Shultz)
カリフォルニア州立大学サンバナディーノ校(CSUSB)心理学科教授。加齢心理学と職場心理学が専門。学部および大学院で、従業員高齢化問題の講座と産業・組織心理学の講座を担当。また同校のエイジング・センターで暫定センター長を務め、高齢者の抱える問題に取り組み、健やかな老後のための活動を展開している。専門分野での学会発表は100回以上を数え、査読付き論文はこれまでに約50本を執筆。著書4冊、共著10冊を刊行。最近、CSUSBの優秀教授賞を受賞した。

本書の要点

  • 要点
    1
    長寿化により、引退は新たな人生の始まりを意味するようになった。幸福な人生を送るには、引退後のロードマップが重要となる。
  • 要点
    2
    引退して直面する壁は、担うべき仕事や役職がなくなって、アイデンティティを喪失しそうになることだ。これを防ぐには、仕事以外でもやりがいを感じられる場所を見つけ、新たなアイデンティティを確立することが重要だ。
  • 要点
    3
    引退後も人付き合いを大切にしながら、新しいことに挑戦し続ければ、健やかで楽しい毎日を送れる。

要約

仕事と人生

どこかへ向かう道

仕事で何かを達成したりキャリアを伸ばしたりするには、目標の設定が有効である。それと同様に、引退後の人生を考えるときも、自分がどこに向かうのか、つまり人生の目標を設定するといい。ただし、目標を決めることで、限界をつくり、機会を逃したり挫折したりしたときに落胆するというマイナス面も生じかねない。

そのため、目標は一点集中で設定するのではなく、健康、家族生活、財産管理、余暇、個人的な挑戦など、人生の領域ごとに掲げ、柔軟に追求していくことが大切だ。あらかじめ人生の目標をバランスよく設けておけば、仕事以外でも目的意識が持てる。そのため、仕事の目標がなくなっても精神的なダメージを最小限にできる。

虹の向こうに何がある?
constantinopris/iStock/Thinkstock

引退は新しいスタートを切る絶好のチャンスである。しかし、もしも引退後の生活を、身を粉にして働いたごほうびだと思ったら、当てがはずれてしまうかもしれない。現実は、思い描く理想のプラン通りにいかないこともあるだろう。そこで、これまでとは違う忙しい人生の始まりだと覚悟する必要がある。

引退後の落とし穴にはまらないためには、引退を前向きにとらえて、事前に準備をしておくといい。バラ色の引退生活、虹の向こう側のイメージが、やる気を大いにかきたててくれるだろう。

老けこむのはまだ早い

老化することに対して、心身の働きや認知能力の衰えなど、あまり良いイメージはないかもしれない。しかし、その心配が現実になるケースはそう多くない。たしかに新しい情報を処理して論理的に応用する能力は、加齢とともに段々と衰えていく傾向にある。しかし、知識量や特定分野の知能は上がっていき、減退を補うことができる。また、深い知見や豊かな経験に基づいたさまざまな解決策を提示できるのも、年齢が上がっていくことに伴うメリットである。

いくら健康的な生活を送っても、程度は人それぞれだが、老化は起きる。糖尿病、高血圧、認知症などの疾患や、大切な人との死別が重くのしかかり、気持ちが落ち込むこともある。しかし、人間の心は復元力が強いため、良い面に意識を向けることで、前向きに日々を送ることができる。

【必読ポイント!】 引退に向けた計画

引退へのロードマップ

医学の進歩により寿命が延びたことで、引退はお迎えが来るまでのんびり過ごす時間ではなく、新たな人生の始まりを意味するようになった。人生の歩みは道のイメージである。長い人生を送るためには、できる限り幸せであり続けられるロードマップが必要だ。

まず、過去の経験を引退後の生き方の指針にできるよう、「ライフチャート」を作ってみるといい。これまでに起きた大きな出来事や困難を時系列で書き出し、それぞれを「喜び」と「達成感」で評価する。得点が高かったことは自分の糧になった出来事なので、引退後の活動にも組み込むことが望ましい。

定年後も現役を続ける
Ridofranz/iStock/Thinkstock

仕事がおもしろくてやめたくない人、蓄えを増やすためにもう少し働きたい人は定年後も働くという選択をするかもしれない。そのときに、社会的な制約があることも頭に留めておくといいだろう。年長者の指導力が重視される文化もあれば、若いエネルギーが大事とされる文化もある。

一般的に、高齢者は想像力に欠け、自分のやり方に固執すると思われがちだ。しかし、斬新な発想や解決策を示したり、独創性を発揮してきたことを訴えたりすれば、高齢者になっても価値があると認められるはずだ。

半分現役、半分引退

最近は働き方も多様化しており、働くかやめるかの二者択一ではなくなってきている。完全引退ではなく段階的に引退するという形も可能だ。段階的引退のメリットは、認知機能低下の予防に一定の効果があること、自己決定の感覚があるため幸福度が上がることなどである。

また、段階的引退を会社が認めて支援してくれていれば、自分の希望が尊重されているという実感も持てる。そして、現役を続けながら新しい活動を始められれば、たとえその活動が期待外れであっても影響は小さいだろう。

克服すべき課題

ラベルを捨てる

今までは、職業を尋ねられたときに出る答えが自分のアイデンティティになっていた。では、それを失ったあとは、どのようにアイデンティティを確立すればいいのだろうか。

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要約公開日 2017.07.16
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