仕事で何かを達成したりキャリアを伸ばしたりするには、目標の設定が有効である。それと同様に、引退後の人生を考えるときも、自分がどこに向かうのか、つまり人生の目標を設定するといい。ただし、目標を決めることで、限界をつくり、機会を逃したり挫折したりしたときに落胆するというマイナス面も生じかねない。
そのため、目標は一点集中で設定するのではなく、健康、家族生活、財産管理、余暇、個人的な挑戦など、人生の領域ごとに掲げ、柔軟に追求していくことが大切だ。あらかじめ人生の目標をバランスよく設けておけば、仕事以外でも目的意識が持てる。そのため、仕事の目標がなくなっても精神的なダメージを最小限にできる。
引退は新しいスタートを切る絶好のチャンスである。しかし、もしも引退後の生活を、身を粉にして働いたごほうびだと思ったら、当てがはずれてしまうかもしれない。現実は、思い描く理想のプラン通りにいかないこともあるだろう。そこで、これまでとは違う忙しい人生の始まりだと覚悟する必要がある。
引退後の落とし穴にはまらないためには、引退を前向きにとらえて、事前に準備をしておくといい。バラ色の引退生活、虹の向こう側のイメージが、やる気を大いにかきたててくれるだろう。
老化することに対して、心身の働きや認知能力の衰えなど、あまり良いイメージはないかもしれない。しかし、その心配が現実になるケースはそう多くない。たしかに新しい情報を処理して論理的に応用する能力は、加齢とともに段々と衰えていく傾向にある。しかし、知識量や特定分野の知能は上がっていき、減退を補うことができる。また、深い知見や豊かな経験に基づいたさまざまな解決策を提示できるのも、年齢が上がっていくことに伴うメリットである。
いくら健康的な生活を送っても、程度は人それぞれだが、老化は起きる。糖尿病、高血圧、認知症などの疾患や、大切な人との死別が重くのしかかり、気持ちが落ち込むこともある。しかし、人間の心は復元力が強いため、良い面に意識を向けることで、前向きに日々を送ることができる。
医学の進歩により寿命が延びたことで、引退はお迎えが来るまでのんびり過ごす時間ではなく、新たな人生の始まりを意味するようになった。人生の歩みは道のイメージである。長い人生を送るためには、できる限り幸せであり続けられるロードマップが必要だ。
まず、過去の経験を引退後の生き方の指針にできるよう、「ライフチャート」を作ってみるといい。これまでに起きた大きな出来事や困難を時系列で書き出し、それぞれを「喜び」と「達成感」で評価する。得点が高かったことは自分の糧になった出来事なので、引退後の活動にも組み込むことが望ましい。
仕事がおもしろくてやめたくない人、蓄えを増やすためにもう少し働きたい人は定年後も働くという選択をするかもしれない。そのときに、社会的な制約があることも頭に留めておくといいだろう。年長者の指導力が重視される文化もあれば、若いエネルギーが大事とされる文化もある。
一般的に、高齢者は想像力に欠け、自分のやり方に固執すると思われがちだ。しかし、斬新な発想や解決策を示したり、独創性を発揮してきたことを訴えたりすれば、高齢者になっても価値があると認められるはずだ。
最近は働き方も多様化しており、働くかやめるかの二者択一ではなくなってきている。完全引退ではなく段階的に引退するという形も可能だ。段階的引退のメリットは、認知機能低下の予防に一定の効果があること、自己決定の感覚があるため幸福度が上がることなどである。
また、段階的引退を会社が認めて支援してくれていれば、自分の希望が尊重されているという実感も持てる。そして、現役を続けながら新しい活動を始められれば、たとえその活動が期待外れであっても影響は小さいだろう。
今までは、職業を尋ねられたときに出る答えが自分のアイデンティティになっていた。では、それを失ったあとは、どのようにアイデンティティを確立すればいいのだろうか。
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