多くの国において最大の富の所有者は、納税者である一市民から構成される集団、つまり私たちであり、その富を管理するのが政府である。しかし政府は何千もの企業や土地などの資産を持ちながらも、その価値を正しく把握できていない。国が所有する富(以下、パブリック・ウェルス)の活用において、ガバナンスの質は長年軽視されてきたのである。
仮に世界中のパブリック・ウェルスの運用益が1パーセント増えれば、毎年7500億ドルという額が増えることになる。これはサウジアラビアのGDPに匹敵する数字だ。また、中央政府系列の商業資産が専門家によってうまく運用されれば、世界中で新たに2兆7000億ドルが生み出される計算になる。この額は、運輸、電力、水、通信などのすべての国家インフラに費やしている金額より大きい。こういった事実はなかなか国民に知らされていない。
もちろん、すべてを民営化すべきと主張しているのではない。民間企業の経営手法の要素を取り入れた上で、国家の社会的目標の追求に役立てることが、パブリック・ウェルスのガバナンスにおいて重要なのだ。
ブラジルでは、国家資本主義が栄えた時代に多くのSOE(国有企業)がつくられた。1930年から独裁者として君臨したジェトゥリオ・ヴァルガス大統領は、SOEなら低価格商品を提供できるとし、ライバル民間企業に対して政府関連企業に会社を売却するよう促した。
1950年代に入ってからは、石油公社、電力、開発銀行のようなSOEがつくられ、石油の抽出や精製の独占権を持ち、工業化を後押しした。その後の軍事政権下でもSOEは増加し、食料・穀物部門のSOEが鉄道部門に参入するなど、専門分野を超越した経営が行なわれた。この間もSOEの補助金は増加され、国民に財政負担を強いていたが、政府は物価の安定や失業の解消に貢献していると主張し、ブラジル国民は概ね好意的に受け入れていた。
しかし1990年代に入り、財政破綻と超インフレが迫ってくると状況は一変。ブラジル政府は公共企業体の売却、関税の削減に取り組まざるをえなくなった。イタマール・フランコ大統領は「レアル計画」と呼ばれる改革プログラムを開始し、適度な変動通貨の導入、公共料金の凍結による金融引締めにより、インフレの鎮静化、賃金の増加を実現した。1990年からの12年間で、165の企業が民営化された結果、GDPの8パーセントにあたる収入が得られ、債務の返済に当てられた。
そのかいもあって、2002年からの10年弱は、ブラジルが最も繁栄した時代となった。
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