政府の隠れ資産

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政府の隠れ資産
出版社
東洋経済新報社

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出版日
2017年02月02日
評点
総合
3.5
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
3.0
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おすすめポイント

日本の公的債務はGDPの200%を超える。これはOECD加盟国の平均の2倍以上だ。しかも高齢化社会、低インフレ、増税への反対が障壁となり、債務超過の解決には光が見えない状態である。だが本書によれば、公的機関所有の土地と知的所有権を合計した商業的価値のGDPに占める割合においては、日本は世界第2位だという。

著者が指摘するのは、日本政府と同様、多くの国にも国民の目から隠れたところに豊富な資産があり、それは超債務国でさえも例外ではないということだ。これらの資産の多くは国営産業の遺産で、空港、港、発電所、公共交通システムなどが含まれる。このような大きな不動産ポートフォリオを、ほとんどの政府や自治体は所有しているのである。

本書は、スウェーデンやシンガポールを例にあげながら、その公的資産を活用することで経済成長を押し上げる、比較的痛みの少ない方法を提示している。

日本という国にとって、将来のためのお金や資産はどこから浮かび上がってくるのか、その有効活用は可能なのか。納税をする一市民として、私たちが政府にどのような要望をしていくべきなのかを本書は示唆している。各国の事例とともに、日本の将来について考えを深めることができる一冊だ。ぜひ手にとっていただければと思う。

ライター画像
山崎華恵

著者

ダグ・デッター (Dag Detter)
ヨーロッパとアジアの投資家のアドバイザーとして活躍し、高い潜在力を持ちながら十分に活用されていない資産の確認を専門分野にしている。スウェーデン政府の持ち株会社スタットゥムの社長ならびに産業省のディレクターとして、スウェーデンが初めて本格的に取り組んだ公共部門の商業資産の変革で指導的役割を果たした。

ステファン・フォルスター (Stefan Fölster)
斬新な改革を専門とするストックホルムのシンクタンク、リフォーム・インスティテュートのマネージング・ディレクター。スウェーデン王立工科大学の経済学准教授。以前はスウェーデン企業同盟のチーフエコノミストを務めた。

本書の要点

  • 要点
    1
    多くの国には、国民から見えないところに大きな富がある。その所有者は納税者である一市民、つまり私たち一人ひとりである。
  • 要点
    2
    積極的なガバナンスをすることは、政治家にとっても民間にとっても有用である。資本構造の最適化と競争的な運用戦略を行なうことが、価値の最大化を図るためには必要だ。
  • 要点
    3
    政治の干渉を受けない持株会社(ナショナル・ウェルス・ファンド)にガバナンスを移行し、民間の力を利用することが、国の経済成長を促す一助となる。

要約

パブリック・ウェルスの可能性

国には知られていない資産がある
Mihai Maxim/iStock/Thinkstock

多くの国において最大の富の所有者は、納税者である一市民から構成される集団、つまり私たちであり、その富を管理するのが政府である。しかし政府は何千もの企業や土地などの資産を持ちながらも、その価値を正しく把握できていない。国が所有する富(以下、パブリック・ウェルス)の活用において、ガバナンスの質は長年軽視されてきたのである。

仮に世界中のパブリック・ウェルスの運用益が1パーセント増えれば、毎年7500億ドルという額が増えることになる。これはサウジアラビアのGDPに匹敵する数字だ。また、中央政府系列の商業資産が専門家によってうまく運用されれば、世界中で新たに2兆7000億ドルが生み出される計算になる。この額は、運輸、電力、水、通信などのすべての国家インフラに費やしている金額より大きい。こういった事実はなかなか国民に知らされていない。

もちろん、すべてを民営化すべきと主張しているのではない。民間企業の経営手法の要素を取り入れた上で、国家の社会的目標の追求に役立てることが、パブリック・ウェルスのガバナンスにおいて重要なのだ。

ガバナンス改革の先駆者たち

ブラジルにおける公共企業体の改革例

ブラジルでは、国家資本主義が栄えた時代に多くのSOE(国有企業)がつくられた。1930年から独裁者として君臨したジェトゥリオ・ヴァルガス大統領は、SOEなら低価格商品を提供できるとし、ライバル民間企業に対して政府関連企業に会社を売却するよう促した。

1950年代に入ってからは、石油公社、電力、開発銀行のようなSOEがつくられ、石油の抽出や精製の独占権を持ち、工業化を後押しした。その後の軍事政権下でもSOEは増加し、食料・穀物部門のSOEが鉄道部門に参入するなど、専門分野を超越した経営が行なわれた。この間もSOEの補助金は増加され、国民に財政負担を強いていたが、政府は物価の安定や失業の解消に貢献していると主張し、ブラジル国民は概ね好意的に受け入れていた。

しかし1990年代に入り、財政破綻と超インフレが迫ってくると状況は一変。ブラジル政府は公共企業体の売却、関税の削減に取り組まざるをえなくなった。イタマール・フランコ大統領は「レアル計画」と呼ばれる改革プログラムを開始し、適度な変動通貨の導入、公共料金の凍結による金融引締めにより、インフレの鎮静化、賃金の増加を実現した。1990年からの12年間で、165の企業が民営化された結果、GDPの8パーセントにあたる収入が得られ、債務の返済に当てられた。

そのかいもあって、2002年からの10年弱は、ブラジルが最も繁栄した時代となった。

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要約公開日 2017.07.12
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