アメリカの超富裕層は自ら設立した慈善財団に寄付をし、節税を行なっている。寄付は無制限の控除が受けられるため、寄付した金の使途は財団の自由となる。
この制度を利用し、チャールズ・コークとデイヴィット・コーク――しばしばコーク兄弟と呼ばれる――をはじめとする超富裕層の保守主義者は、自らの政治信条の実現を後押しするシンクタンクや学術団体に、財団を通じ巨額の寄付を行なってきた。
リチャード・スケイフも保守主義運動に莫大な寄付を行っている超富裕層の一人だ。彼の代表的な寄付先がヘリテージ財団である。ヘリテージ財団は従来のシンクタンクとは異なり、明確に政治的な組織で、きわめて保守的な概念をアメリカ政治のメインストリームに注ぎこんでいる。
こうしたシンクタンクは政治的に偏向しているという批判を避けるため、中立的で超党派な組織に見せかけることに注意を払っている。
超富裕層はアイヴィー・リーグをはじめとする一流大学にも寄付金を注ぎ込み、政治的に右寄りの思想を持つ次世代の育成に力を入れている。その仕掛け人の一人がジョン・オリンである。
オリン財団は1985年から1989年にかけて、ハーヴァード、イェール、シカゴなどの一流大学を含む、アメリカのロースクールすべての「法と経済学」プログラムの83%の費用を負担し、自由市場と小さな政府を指向する理論を大学のプログラムに埋め込んだ。
また、オリン財団は判事向けのセミナーも提供している。後の最高裁判事を含む660人の判事がそれに参加し、環境規制と労働規制がいかに最悪で、インサイダー取引を取り締まる法律は害が大きいということを学んでいる。実際、オリンの目論見通り、法曹界の風土は右傾化しつつある。
コーク兄弟が多額の資金を投入しているのが、ヴァージニア州のジョージ・メイソン大学だ。コーク兄弟は寄付金を投入して、この大学にマルタカス・センターを設立させ、自分たちの意向に沿った研究をさせている。
マルタカスの研究員の提案により、ジョージ・W・ブッシュ大統領が廃案にした規制は14件にのぼる。そのうち8件が環境保護関連の規制だ。たびたび環境保護庁と揉めているコーク兄弟の意向を反映しているのは明らかである。
批判者によれば、マルタカスはNPOを装ったロビー組織であり、その内実は資金提供者の経済的利益と完全に噛み合っているという。
コーク兄弟が創設した団体のひとつに、非営利の「教育」団体である「健全な経済のための市民(CSE)」がある。当初、CSEの資金のほとんどはコーク兄弟が提供していたが、その後はエクソンからマイクロソフトに至るまで、アメリカの最大手企業数十社が競って寄付を行なっていた。このように、草の根運動を装って政府を攻撃するのがCSEの実態であった。
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