レシピ公開「伊右衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」、どっちが賢い?

特許・知財の最新常識
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出版社
出版日
2016年12月20日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.5
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おすすめポイント

今、日本の特許が危ない――。本書を読み終わるとそう危機感を抱く読者も少なくないだろう。過去には日本の技術力が世界一で、加工貿易を得意とし、高度成長期以降ずっと貿易黒字が続くという時代があった。しかしいつのまにか、日本のGDPは中国に抜かれて第3位となり、精密機器の加工もアジアの他国が担うようになってきた。そして現在、技術力を強みとした日本の名門企業が軒並み経営不振に陥っている。

こうした事実を連日報道で目の当たりにしながらも、日本人はどこか「そうは言っても日本は技術大国だから」と考えている節がある。しかし本書を読めば、それはただの希望的観測でしかないのだと思い知らされる。我々一人ひとりに「知財コミュニケーション力」が圧倒的に欠如しているために、知らず知らず、本来競争力の源泉となっていた技術力を公開し、外国に無償提供してしまっているというのが日本の現状なのだ。

あなたは特許さえ取ってしまえば、自分のアイデアは安全だと思ってはいないだろうか。実際のところ、特許申請されたアイデアは一定期間後、問答無用でインターネット上に公開される。著者は特許の落とし穴と、それにより弱体化してきた日本の現状を、なじみ深い事例とともにわかりやすく説明するとともに、特許や知財コミュニケーション力を戦略的に使って企業が成功する方法を紹介してくれる。特許・知財に関わる方だけでなく、あらゆる業種・職種のビジネスパーソンにぜひご一読いただきたい。

ライター画像
和田有紀子

著者

新井 信昭(あらい のぶあき)
1954年生まれ。高卒後、サラリーマン生活を送る中、幼なじみから見せられた大学の卒業証書を見て一念発起。新聞配達やタクシー運転手などでお金を貯め、25歳の時に1年間かけて世界一周の旅へ出る。帰国後、身に付けた英語を生かして秋葉原の免税店で働き始めるが、そこで知り合った司法試験受験生に影響を受け、法律の面白さに目覚める。29歳で行政書士、30歳で弁理士予備試験に合格。精密機械メーカー勤務の傍ら、39歳で弁理士本試験に合格。芝浦工業大学夜間部の学生と特許事務所所長の二足の草鞋を履く。同大学2部電気工学科卒。さらなる知見を得るために52歳で東京農工大学大学院入学。博士(工学)。現在は同大学院・ものつくり大学非常勤講師(知財戦略論)、(株)グリーンアイピー代表取締役。知財コミュニケーション研究所代表。

本書の要点

  • 要点
    1
    企業がこぞって新たなアイデアを数多く特許出願し、特許庁がインターネット上の公報を通じて全世界にアイデアを公開してきたことで、日本の技術が世界中に流出してしまった。
  • 要点
    2
    アイデアは、人に見せた瞬間に新規性を失う。競争力を長く維持するためには、自分たちの競争力の源泉となっているアイデアをむやみに外に見せないようにし、知財コミュニケーション力を身に付けることが肝要である。
  • 要点
    3
    『伊右衛門』の成功の裏には「オープン・クローズ戦略」がある。

要約

【必読ポイント!】 特許出願は「アイデアを盗んでください」と宣言するに等しい

そもそも「特許」とは何か?

まず、知的財産(知財)とは、お金を儲けるために、人間が考えたアイデア全般を指す。技術や商品デザイン、レシピなど、知財は実に多岐にわたる。つづいて、特許というのは、「特許法」という法律によって知財に与えられる権利のことである。権利が与えられることから、多くの人は特許さえ取っていれば自分のアイデアは安全だと過信しがちだ。

しかし、著者によると、特許とは「知財に着せた透明な防護服」でしかないという。防護服を着ているため、外部からの直接的な攻撃からは身を守ることができるが、透明なので中身は丸見えになってしまう。これが特許だ。

特許庁に提出する出願書類は、プロの弁理士に依頼するのが一般的である。もちろん自分で記入することも可能だ。しかし、ルールに則った作法で、かつ、先行アイデアとの違いが明確にわかるように創作的に書く必要があるので、プロに任せるのが妥当だろう。出願された書類は、特許庁の審査官という役人によって、過去に似たようなアイデアが出願されていないかどうかチェックされる。ここで類似の先行アイデアがなければ、そのまま特許が認められる。ただし、この審査だけで通常1~3年ほどかかる。

先行アイデアが見つかった場合には、出願人はアイデアの説明の仕方を変えたり反論したりすることができ、これによって先行アイデアとの違いが認められれば特許を取得できる。また、出願するとき、審査するとき、特許が認められたときそれぞれにおいて、印紙代が合計15万円~20万円ほどかかる。出願書類を弁理士に依頼する費用は30~50万円ほどになり、特許が認められた後も、特許料として毎年5~10万円を国に納める必要があるのが現状だ。

日本のアイデアは全世界にさらされている
lisa_l/iStock/Thinkstock

これだけの費用をかけて出願しても、最初の審査をクリアし、スムーズに特許が認められるのは、全体の20%以下と言われている。現実には、特許が取れないケースも多く、ほぼ半数の出願アイデアが「断念」という道を選ぶ。

さらに悪いことに、出願から1年半が経つと、特許を取得できたかどうかにかかわらず、出願されたアイデアはすべて、特許庁のホームページ上にある「公開特許公報」に掲載される決まりとなっている。

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要約公開日 2017.07.27
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