「損」を恐れるから失敗する

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「損」を恐れるから失敗する
出版社
出版日
2017年04月28日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

日常生活で起こっている現象の多くは、「損をしたくない」という、人間の基本的心理によって説明することができる。こう唱えるのは、長きにわたり人の心理傾向と行動との関係を研究してきた「こころ」の専門家、和田秀樹氏だ。

本書では、あらゆる判断ミスは「損をしたくない」という損失回避性の法則によって引き起こされることを、心理学者ダニエル・カーネマンが確立した「行動経済学」の観点から説いていく。行動経済学は、人間の「損」や「得」に対する反応の研究が最も進んでいる分野といってよい。

研究によって明らかになったのは、人間は得よりも損に対してより強く反応するということである。これは非常に重要で、「損をしたくない」という感情が強ければ強いほど現状維持志向につながりやすい。こうした人間が生来持っている心理特性によって、変えたいのに変えられない状況が続く可能性があるという意味だ。そしてそれが、将来の「大きな損失」を生みかねない。

だからこそ、この人間の心理特性を知り、これから下していくであろう大切な判断や意思決定に活かしていくことが大切なのだ。変えられないことと、どう付き合っていくか。その具体的な方法を多彩な事例とともにわかりやすく教えてくれるのが本書である。人の心の本質を深く理解し、自分自身の飛躍のための確固たる足場を築いていただきたい。

ライター画像
二村英仁

著者

和田 秀樹 (わだ ひでき )
1960年、大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カールメニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、国際医療福祉大学大学院教授(臨床心理学専攻)、川崎幸病院精神科顧問、一橋大学経済学部非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック(アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化したクリニック)院長。著書に、『感情的にならない本』『自分は自分 人は人』(以上、新講社)、『不安にならない技術』(宝島社)、『心と向き合う臨床心理学』(朝日新聞出版)、『医学部にとにかく受かるための「要領」がわかる本』『すぐに、人間関係がラクになる本』(以上、PHP研究所)、『老人性うつ』『「がまん」するから老化する』(以上、PHP新書)、『うつ病は軽症のうちに直す!』『「思考の老化」をどう防ぐか』(以上、PHP文庫)など多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    人間は「得をすること」よりも「損をしないこと」を優先する。それは損をしたと感じたときの心理的インパクトの方が大きいからだ。しかし、この選択により、長い目で見ると大きな損失を被る可能性がある。
  • 要点
    2
    人間の心理特性が、経済活動に伴う判断や意思決定に与える影響について研究しているのが行動経済学だ。行動経済学の知識は、より合理的な判断を下すうえで役立つ。
  • 要点
    3
    人間の認知にはバイアスがかかっている。これを前提に考えると、判断ミスを避けやすくなる。

要約

行動経済学の重要性

人はなぜ「損」を恐れるのか
DeanDrobot/iStock/Thinkstock

2.25倍。これは「得をした」ときと比べ、人間が「損をした」と感じたときに生じる心理的インパクトを指す。得をしたいという気持ちよりも損を避けたいという気持ちのほうが強く働き、行動や生活全般に大きな影響を与える。こうしたことが心理学の実験からわかってきた。

外食をすると、決まっていつもの店でいつもと同じものを注文することはないだろうか。この場合も「損を避けたい」という感情が働いている可能性がある。例えば、新しい店を開拓すれば、よりおいしいものを食べられるかもしれない。一方で、自分の好みと合わないことだってある。

同じ店で同じメニューを頼むという行動は、「得をするより損を避けたい」という人間の心理傾向から考えれば説明がつく。これが度を過ぎると、極端な「現状維持志向」に陥って、それ以上の発展が期待できなくなる。

なぜ「損」を恐れるかについては、現時点では解明されていない。ただ、数多くの実験結果からその傾向が強いことは明らかになっている。重要なのは、この「損失回避性」の法則を知り、人間の心理特性とどう付き合っていくかだ。

人間の認知システムを解明する行動経済学

人間の「損」「得」に対する反応という分野において、最も発展しているのが行動経済学である。心理学の側面から、人がどのように判断や意思決定を下し、行動していくかをひも解いていく。

この研究の先駆者となったダニエル・カーネマンは、人間は富の「絶対量」ではなく「変化(損失)」に対してより強く反応することを明らかにした。これは、レファレンス・ポイントと呼ばれる参照点を基準に人間の心理状態が変化するという理論である。例えば100億円の資産をもつ人は、1万円を失ったとしたら、資産が100万円の人と同様の心理的ダメージを受けるということだ。人間の心理状態は、富の絶対量ではなく、それぞれの参照点からの変化に反応することを示している。

なぜこのようなことが起きるのか。それは人間の認知システムの不確実さが原因と考えられている。人間の認知は「客観的な絶対量」ではなく「変化」を捉えるようにできている。これにより、残りの資産という客観的な絶対量よりも、1万円が減ってしまったという変化に意識が向くのだ。

行動経済学を政策決定や経営判断に活かす

人間の認知システムの不確実さを理解しておくことは非常に重要だ。基本的に人間は、実態とは違うものを捉えており、これをバイアスがかかっている状態という。バイアスとは偏りや歪みを意味する。バイアスによって入ってくる情報に偏りが生じ、間違った判断や意思決定をしやすくなる。

したがって、人間の認知にはバイアスがあり判断ミスをするという前提で物事を考えることが必要だ。そうすれば、正しい認知や判断ができる可能性が高まるだろう。

人間の心理は経済政策の成否にも大きく影響する。よって、行動経済学の知見を、政策決定や経営者の戦略決定などに活かすことが、今後ますます重要となる。

【必読ポイント!】 人間の心理特性を理解する

損得における最も重要な心理特性
grinvalds/iStock/Thinkstock

損得において最も重要な心理特性は何か。それは得をすると思うとリスクを避け、逆に損をすると思うとリスクを追求する傾向にあるということだ。

得をする場面でのリスク回避についての例を挙げよう。

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要約公開日 2017.08.03
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