2.25倍。これは「得をした」ときと比べ、人間が「損をした」と感じたときに生じる心理的インパクトを指す。得をしたいという気持ちよりも損を避けたいという気持ちのほうが強く働き、行動や生活全般に大きな影響を与える。こうしたことが心理学の実験からわかってきた。
外食をすると、決まっていつもの店でいつもと同じものを注文することはないだろうか。この場合も「損を避けたい」という感情が働いている可能性がある。例えば、新しい店を開拓すれば、よりおいしいものを食べられるかもしれない。一方で、自分の好みと合わないことだってある。
同じ店で同じメニューを頼むという行動は、「得をするより損を避けたい」という人間の心理傾向から考えれば説明がつく。これが度を過ぎると、極端な「現状維持志向」に陥って、それ以上の発展が期待できなくなる。
なぜ「損」を恐れるかについては、現時点では解明されていない。ただ、数多くの実験結果からその傾向が強いことは明らかになっている。重要なのは、この「損失回避性」の法則を知り、人間の心理特性とどう付き合っていくかだ。
人間の「損」「得」に対する反応という分野において、最も発展しているのが行動経済学である。心理学の側面から、人がどのように判断や意思決定を下し、行動していくかをひも解いていく。
この研究の先駆者となったダニエル・カーネマンは、人間は富の「絶対量」ではなく「変化(損失)」に対してより強く反応することを明らかにした。これは、レファレンス・ポイントと呼ばれる参照点を基準に人間の心理状態が変化するという理論である。例えば100億円の資産をもつ人は、1万円を失ったとしたら、資産が100万円の人と同様の心理的ダメージを受けるということだ。人間の心理状態は、富の絶対量ではなく、それぞれの参照点からの変化に反応することを示している。
なぜこのようなことが起きるのか。それは人間の認知システムの不確実さが原因と考えられている。人間の認知は「客観的な絶対量」ではなく「変化」を捉えるようにできている。これにより、残りの資産という客観的な絶対量よりも、1万円が減ってしまったという変化に意識が向くのだ。
人間の認知システムの不確実さを理解しておくことは非常に重要だ。基本的に人間は、実態とは違うものを捉えており、これをバイアスがかかっている状態という。バイアスとは偏りや歪みを意味する。バイアスによって入ってくる情報に偏りが生じ、間違った判断や意思決定をしやすくなる。
したがって、人間の認知にはバイアスがあり判断ミスをするという前提で物事を考えることが必要だ。そうすれば、正しい認知や判断ができる可能性が高まるだろう。
人間の心理は経済政策の成否にも大きく影響する。よって、行動経済学の知見を、政策決定や経営者の戦略決定などに活かすことが、今後ますます重要となる。
損得において最も重要な心理特性は何か。それは得をすると思うとリスクを避け、逆に損をすると思うとリスクを追求する傾向にあるということだ。
得をする場面でのリスク回避についての例を挙げよう。
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