ブランドとは、消費者の心の中にある連想の集まりである。製品やサービス、機能、デザイン、広告などのように意識できるものは、あくまで氷山の一角に過ぎない。ブランドと結びついた強い印象や感情の多くは、無意識下のものである。こうした連想を大量に寄せ集めたものを、ここでは「ブランド・ファンタジー」と呼ぶことにする。
脳は「部分」ではなく、「全体」を捉えようとする。そのため、脳には事物をすばやく分類し、必要な部分を自動的に補って、意味をなすように全体像を作りあげてしまう傾向がある。
ブランド・ファンタジーも、ブランドのロゴや商品のパッケージなどの「部分」だけで作られるのではない。ブランドにまつわる、ありとあらゆる情報から総合的に形作られている。
ブランド・ファンタジーは、私たちが何かに対して持っている「直感」のよりどころである。この「目に見えない連想の組み合わせ」が、気づかないうちに私たちの意思決定や行動に大きな影響を及ぼしている。
たとえば、ドラッグストアのプライベートブランドの頭痛薬が1錠あたり24セントなのに対して、有名ブランド「アドビル」のものは1錠あたり70セントもする。同じ量に含まれる薬剤はまったく同じで、同じ安全基準に則っているにもかかわらずだ。ビンにアドビルという名前がつけられただけで、同じものの値段が3倍に跳ね上がるのである。
こうしたブランドの力は、理屈では証明できない。しかし、アドビルというブランドは、「信頼できる」というイメージを私たちに無意識下であたえている。一方、プライベートブランドにはほとんどの場合、何の感情も印象も結びつけられていない。つまりそこにはファンタジーがないのである。
私たちのこうした「直感」は、商品を購入する際の素早い決断に大きな影響をおよぼしている。
ファッション・ブランドや高級ブランドには、他の業界を寄せつけないほどの魅力にあふれたブランド・ファンタジーがある。しかし、素材などの物理的特性から見ると、そこには合理的メッセージが存在しないということも少なくない。
ファッション・ブランドが魅力的に映るのは、潜在的な感情や欲求を刺激する力を知っていて、どんなファンタジーをまとい、伝えたいのか、はっきりと意識しているからである。それが合理性よりも強い影響力を及ぼしているのだ。
マーケティング担当者は、商品の性能を説明することによって、ブランドを築こうとしてしまいがちである。しかし重要なのは、そのブランドが好きだという直感、すなわちブランド・ストーリーを築き上げることだ。買うという行為をもっと楽しくさせるためには、感情に訴えかけなければならない。そうすることで、ブランドは商品の物理的特性を超えて、その価値を強めていくのである。
ブランドを作る上で重要なのは、そのブランドを好んで選ぶようになる「直感」を作ること、つまり、ブランドに対する望ましい連想を築くことだ。ファンタジーとは結局のところ「錯覚」であり、ブランドが作る夢の世界にすぎない。しかしその影響力は非常に強い。商品や私たちの生活に真の価値を与えてくれるのはファンタジーだからである。
脳はいかなる瞬間も、私たちを生かし続けるために活動している。だが、すべてを意識してコントロールしようとすると、あまりに負担がかかりすぎる。だからこそ、私たちの体は進化の過程で、可能な限り自動運転できるようにプログラムされていった。
3,400冊以上の要約が楽しめる