「音楽が売れない」と言われ続けて20年近くが経つ。史上最もCDが売れた年である1998年(6074億)に比べ、2015年の音楽ソフトの生産金額はその40%(2544億円に過ぎない。つまり、この17年でおよそ3500億円が失われた計算になる。
しかし、アーティストたちが「生き残れない」時代になっているかというと、かならずしもそうではない。むしろ音楽不況が叫ばれるようになった00年代以降のほうが、アーティストが着実にキャリアを重ね、息の長い活動を続けられるようになっている。
10年代の音楽シーンは、アイドルもアーティストも当たり前のように「現役でキャリアを重ね、ステージに立ち続けられる」時代なのだ。
90年代は、100万枚を超えるセールスを果たしたミリオンヒットが続々とあらわれ、音楽産業が最も好景気を謳歌していた時代だった。小さなライブハウスに立っていたバンドマンがある日突然スターとなり、訪れたブームに舞い上がる。そしてある日突然、波が引くようにそのブームが消滅する。90年代において、ヒットは一過性の熱狂でしかなく、「人気はいつまでも続かない」というのが当時の常識だった。
また、90年代には「ヒットの方程式」というものが存在した。ドラマのタイアップや音楽番組への出演を仕掛け、とにかくアーティストをテレビに頻繁に露出させる。そこで認知を高めて話題を作れば、CDが飛ぶように売れていく。そういう仕組みが90年代におけるメガヒットを生み出していた。
しかし現在、その方法論はもはや通用しなくなっている。多くの音楽関係者も、むしろ「90年代のCD売り上げが異常なだけだった」と口をそろえている。
なぜ「音楽は売れない」のに「バンドもアイドルも生き残れる」時代になったのか。そこにはひとつのシンプルな解答がある。CDが売れなくても、ライブで収益を得ることができるようになったのだ。
音楽業界の構造は変わりつつある。縮小が続く音楽ソフト市場に比べ、ライブ・エンタテインメント市場は好況だ。10年代初頭から、動員数も売り上げも右肩上がりで拡大が続いている。SNSの普及により、そこでしか経験することのできない「生の体験」の価値が増しており、実力あるアーティストはむしろタフに活動を続けることが可能になったのだ。
90年代のヒットがテレビでの露出による「刷り込み」でつくられていたのに対し、10年代はマスメディアの影響力に頼らずとも、アーティスト自らがファンに向けて情報を発信し、その濃密なコミュニティの中で盛り上がりを生むことができるようになった。
その一方、ヒット曲のあり方は大きく変わり、
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