ネットメディア覇権戦争

偽ニュースはなぜ生まれたか
未読
ネットメディア覇権戦争
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偽ニュースはなぜ生まれたか
未読
ネットメディア覇権戦争
出版社
出版日
2017年01月20日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

2016年11月、世界中が衝撃を目にした。アメリカのトランプ大統領の誕生である。トランプ大統領の当選に対し、反対派の間では世論調査の不備やマスメディアの偏向報道が批判された。次にやり玉に挙がったのが、フェイスブックやグーグルといったネット企業だった。意図的ではないにしても、これらの企業のサービスが媒介となって偽ニュースを拡大したことが、トランプ大統領当選に影響したのではないかというのだ。「ローマ法王がトランプを支持した」「反トランプデモ参加者は金銭を受け取っている」など、どれものちに偽ニュースであったことが判明したが、時すでに遅し。偽ニュースが世界を動かした側面は非常に大きいといえる。

本書では、インターネットが流行りだした約20年前にまでさかのぼり、偽ニュースが生まれ、拡散され、影響力を持つようになった背景を丁寧に解き明かしていく。世界的に見てもとりわけ新聞社の影響が強い日本で、新聞社とネット企業がどのような関係性を築いてきたのか、また、その関係性がメディアの受け手側にどのような影響を与えたのかについての著者の鋭い考察は見事としかいいようがない。

SNSの浸透により、気づかぬうちに我々自身が偽ニュースの媒介者となりかねない今日、偽ニュースとの闘いはもはや力のあるネット企業だけの問題ではない。我々一人ひとりがネットリテラシーを高める必要がある。メディアの現在地を詳しく知るためのバイブルとして、本書をお読みいただきたい。

ライター画像
和田有紀子

著者

藤代 裕之(ふじしろ ひろゆき)
ジャーナリスト/法政大学社会学部メディア社会学科准教授。広島大学文学部哲学科卒。立教大学21世紀社会デザイン研究科修士課程修了。徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントでニュースデスクや新サービスの立ち上げを担当した。ソーシャルメディア時代のメディアとジャーナリズムをテーマに、取材、研究、実践活動を行っている。著書に『地域ではたらく「風の人」という新しい選択』(共著、ハーベスト出版)、『ソーシャルメディア論 つながりを再設計する』(編著、青弓社)など。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。

本書の要点

  • 要点
    1
    偽ニュースは、インターネットの拡大により、素人でも意見を発信できるようになったことから生まれた。ネットメディアに対する不信感が、偽ニュースを受け入れる素地を作っていった。
  • 要点
    2
    まとめサイトなどの「ミドルメディア」で騒がれる話題は、今やマスメディアの格好のネタとなっている。トランプ現象やイギリスのEU離脱も、ミドルメディア上で生まれた炎上を、マスメディアが事実確認なく報道することで、拍車をかけたといえる。

要約

戦争前夜 偽ニュースはなぜ生まれたか

情報の流通経路の多様化―プラットフォーム出現

日本で初めてウィンドウズ95が発売され、インターネット時代の幕開けと言われた1995年。まさにこのときから偽ニュースとの闘いが始まろうとしていた。

それまで紙しか流通経路を持たなかった新聞社は、ネットでのビジネスモデルを確立するのに苦戦を強いられていた。記事を無料で掲載すると、人々はわざわざ有料の新聞を買わなくなってしまう。無料で掲載してテレビのように広告収入で稼ぐことも考えられたが、当時のネット普及率は統計がないほど低く、広告モデルでやっていくのはどうやら難しいと判断された。

また、インターネットが普及する前から有料モデルへの転換も試みられていたが、新聞社は情報機器の変遷に対応しきれず消耗していた。そこで登場したのが、膨大なコンテンツを整理し、紹介する場所提供者、「プラットフォーム」だ。

ネット流通経路を制した王者ヤフー
Bet_Noire/iStock/Thinkstock

インターネット黎明期からネットの情報流通を担っていたのはヤフーだ。ヤフーはシリコンバレーで生まれたポータルサイトだが、日本でもモデム(インターネットに接続する機器)の無料配布などで一気に認知されるようになった。

そのヤフーが1996年7月からニュースを取り扱い始めた。ヤフーは新聞社や通信社から記事を安く仕入れて掲載することで、アクセスを稼いでいった。いろいろなソースから集まった記事を無料で一覧できるヤフーは、「ざっくりと世の中の動きを知りたい」というユーザーにはうってつけだった。こうして次第に、プラットフォームとしてのヤフー一強というネットニュースの流通ができあがっていく。

この構造は、ネット時代になかなか対応できていなかった新聞社や通信社からすれば渡りに船ともいえた。しかし、無料掲載を忌避していた新聞社にとって、記事を叩き売ることに抵抗はなかったのだろうか。

ヤフー「新聞少年」に徹する

もちろん新聞社にも懸念はあった。しかし当時の新聞社は、記事を作ることができるのは自分たちだけだと過信していた。記事を作るには、訓練された記者や編集者以外にも、培われてきたノウハウや組織的な仕組みが必要で、ネット企業には一朝一夕には作れまいと高を括っていたのだ。この思い込みは、のちにライブドアの「ライブドアブログ」やヤフーの「ヤフー個人」というサービスによって打ち砕かれることとなる。

また、当時はヤフーが自らを「新聞少年」と標榜していた。つまり記事制作を行わず、あくまでそれを人々に届ける役目に徹するというわけだ。これにより、ヤフーとマスメディアの間には良好な関係が築かれていた。

もちろん、ヤフーに記事を提供しなかった新聞社もあった。

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要約公開日 2017.08.27
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