宅配がなくなる日

同時性解消の社会論
未読
宅配がなくなる日
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同時性解消の社会論
未読
宅配がなくなる日
出版社
日本経済新聞出版社

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出版日
2017年06月06日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

2017年、宅配業界が揺れている。不動の王者であるヤマト運輸が荷物の急増に対処しきれなくなり、サービスの見直しを求められている状態だ。

インターネットで気軽にショッピングを楽しめるようになった今、世の中には大量の宅配物が流通するようになった。その一方で、受取人の在宅率はますます低くなりつつある。だが、買い物のあり方が大きく変容したにもかかわらず、宅配サービスは昭和の時代から大きく変化していない。宅配サービスは今、改革を求められている――これが著者の主張である。

本書のもっとも興味深い点は、この宅配サービスの改革を「同時性」というキーワードから分析していることだ。情報化が進んだ現代社会では、時間と空間を共有するという「同時性」が多くの分野で解消されてきている。ところが宅配分野では、依然として同時性の問題が残されている。

もちろん、モノの物理的な移動に関しては、いくら情報化が進んでも原始的な方法に頼らざるをえない面もある。モノを動かすためには、誰かが体を動かして運ばなければならない。だが、「同時性の解消」なくして、宅配業界が時代の流れについていくことはむずかしい。

本書では、「同時性」を解消する様々なアイデアが紹介されている。ここに書かれているとおりの未来がやってきたら……と想像するだけでもワクワクしてくること請け合いだ。宅配業界だけでなく、これからの社会全体のあり方が見えてくる一冊である。

ライター画像
池田明季哉

著者

松岡 真宏(まつおか まさひろ)
フロンティア・マネジメント株式会社 代表取締役
東京大学経済学部卒業。外資系証券などで10年以上にわたり流通業界の証券アナリストとして活動。2003年に産業再生機構に入社し、カネボウとダイエーの再生計画を担当し、両社の取締役に就任。2007年より現職。『流通業の「常識」を疑え!』(共著、日本経済新聞出版社)、『「時間消費」で勝つ!』(同)『時間資本主義の到来』(草思社)等、著書多数。

山手 剛人(やまて たけと)
フロンティア・マネジメント株式会社 産業調査部シニア・アナリスト
東京大学経済学部卒業。1999年、ウォーバーグ・ディロン・リード証券(現UBS証券)に入社。2003年に同社最年少でシニア・アナリストに就任し、小売セクターの調査を担当。50社以上の消費関連企業の格付けを行い、国内外のアナリストランキングで上位評価を受ける。2010年にクレディ・スイス証券に移籍。2017年より現職。

本書の要点

  • 要点
    1
    ヤマト運輸の破綻は、「働き方」や利用者のモラルの問題ではない。社会の根本的な変容による不可逆的な宅配の増加に、宅配システムが対応できていないために起きたのである。
  • 要点
    2
    技術革新にともなう情報化によって、人々の「時間価値」が変容している。人々は優先度の低いことに割く時間の短縮を求めている。
  • 要点
    3
    従来のドライバーと受取人が同じ時間に居合わせるという「同時性」を解消することで再配達問題は解決できる。

要約

【必読ポイント!】 なぜ宅配は崩壊したのか?

ネットワークの崩壊が真の問題である
Catalin205/iStock/Thinkstock

宅配業界におけるドライバーの過重労働の問題は、2016年11月にヤマト運輸が労働基準監督署から未払い残業代に関する是正勧告を受けていたことが発覚したのをきっかけに、広く話題になった。過去40年にわたって、世界最高水準の品質と安定性を維持してきた日本の宅配サービスが今、変革の時を迎えている。

こうした問題が起きたのは、単にヤマト運輸の「働き方」だけのせいではないし、顧客が再配達を頼みすぎるというモラルの部分の話でもない。問題はもっと根深いところにある。すなわち、宅配業界が時代の変化にともなう社会構造の変化に対応できていないのだ。今求められているのは、宅配というシステムそのものに対する、より抜本的な解決策である。最終の配達所から各家庭、各企業というラストワンマイルの改革が必要である。

再配達問題の本質は、ネットワークの崩壊にある。これまで、ヤマト運輸の宅配網は営業所や仕分け拠点をハブとし、そこから個人の家や企業への配達をおこなうというネットワークを築いてきた。

こうしたクモの巣状のネットワークは「スケールフリーネットワーク」と呼ばれる。スケールフリーネットワークは経路が最適化されている一方、ハブへのアクセスの集中に弱い。現在、ヤマト運輸の宅配網の先端部分では、現場の宅配ドライバーの努力だけでは処理できないレベルで、ネットワークへのアクセスが集中している。

こうした状態は、これまでとは異なる構造や経路を持つネットワークを再構築することでしか解決されないだろう。

受取人の不在とネットショッピングの隆盛

既存の宅配システムが機能不全に陥った第一の要因は、世帯構造の変化にある。ヤマト運輸が「宅急便」サービスを開始した1976年から現在にかけて、家庭のあり方は劇的に変化した。日本の総人口に大きな変化がないにもかかわらず、世帯数が約70%も増加したのだ。これは単身世帯が増え、一世帯の人数が減ったためである。さらに、女性の就業率も上がっている。そのため、受取人が不在である確率が上がり、再配達の必要性が高まってしまった。

第二の要因は、スマートフォンの利用時間の増加である。スマートフォンの爆発的な普及により、人々はいつでもどこでもインターネットにアクセスできるようになった。従来はある程度まとまった「かたまり時間」が必要だった「買い物」という行為が、他の活動のあいまの「すきま時間」に行われる行為に変化したのだ。その結果、人々は少量多頻度のネットショッピングをおこなうようになり、ネットで購入された商品を配送する宅配ネットワークに、大きな負荷がかかるようになった。今後もこの負荷が減ることはないだろう。

「時間価値」が変わった
ismagilov/iStock/Thinkstock

第三の要因は、「時間価値」の変化だ。「時間価値」とは、費やした時間によって生み出される価値のことである。スマートフォンの普及や社会の情報化により、すきま時間の価値が増している。すきま時間でも十分に生産性を高めることが可能になったためだ。人々が時間に求める価値は、時間を短縮する「効率化」と、時間の質を高める「快適化」に二極化されている。その結果、「宅配便を受け取る」という時間の価値が下がり、宅配ドライバーが自宅を訪問するまでの待機時間を待てない人々が増えている。日本の宅配業界はおよそ2時間刻みで配達時間を指定できるという、世界にも類を見ない精度を持つが、人々はその最大2時間すら許容できなくなっている。

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要約公開日 2017.08.29
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