キーエンスの営業担当者は神出鬼没だ。ある工場でレーザーマーカーという刻印のための装置が壊れたとき、キーエンスの営業担当者がまるで故障のタイミングを知っていたかのように現れた。
その担当者は別部署で商談を終えたところで、いつものように「他にお困りの方はいませんか?」と尋ね、故障したレーザーマーカーのことを知った。営業のチャンスをつかんでからの速度は抜群だった。数日後には再訪し、自社製品のデモを披露。納得した相手方はパナソニック製だった装置をキーエンス製に買い替えた。
キーエンスの営業担当者は、販売チャンスを見逃さない。シェア奪取を繰り返し、2022年3月期の売上高は7552億円にもなった。これは10年前の4倍近い額だ。しかも、営業利益率は驚異の55.4%を誇る。
1974年設立のキーエンスの主力商品は、センサーを中心とした業務用の電子機器だ。工場の自動化(ファクトリーオートメーション)の広がりとともに、業務を拡大してきた。商品数は1万種以上で、新商品の約7割は「世界初」あるいは「業界初」という。付加価値を高め、粗利は約8割とされる。
キーエンスでは直接営業が欠かせない。競合メーカーが代理店に営業を任せる一方、キーエンスは社員が直接営業マンとして客先に出向く。
営業担当者は直接営業を生かし、圧倒的スピード力を持つ。例えば、クボタがロボットビジョンという検査に使うカメラシステムの見積もりを数社に依頼したときのことだ。キーエンスだけが即日回答し、翌日には出向いて試用も提案した。「ウェブサイトから商品カタログをダウンロードした1時間後に、突然電話がかかってきた」という取引先もいる。キーエンスに待ちの姿勢はない。
キーエンスの営業担当者には「ロールプレイング(ロープレ)」が欠かせない。
2人1組になって商談シミュレーションを繰り返す。ベテランでも例外なしだ。毎日10~15分ほど、「まるで歯を磨くように」当たり前のようにこなしていく。
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