スマホや携帯が普及した現在、腕時計の「正確な時間を知ること」という価値は失われてしまい腕時計をする人は少なくなった。しかし、以前よりも腕時計のCMや広告が増えている気がする。これはなぜなのか。実は、これまでになかったようないろいろな用途に利用できる腕時計が販売されるようになっているからだ。
たとえば、心拍数を計測し無理なく体力アップできる「心拍トレーニング」が可能なジョギング専用ウォッチや高度計・気圧計・温度計・コンパスなどの機能がついた登山専用の腕時計。これらの時計はスマホなどの他の時計にはない価値を顧客に提供している。
この「顧客がほしいと望み、自社だけが提供できる価値」をバリュープロポジションという。バリュープロポジションを考えるには顧客を絞り込むターゲティングが必要だ。たとえば、ジョギング専用ウォッチは「ジョギングで体力を強化したい」顧客にターゲティングし、「時計で体力強化が図れる」というバリュープロポジションを提供している。売れる商品を作るためには顧客を絞り、その顧客が商品を購入する理由となるバリュープロポジションを考えぬく必要がある。
競合他社が増えて商品がコモディティ化し、過当競争が起きている市場を「レッドオーシャン」と呼ぶ。レッドオーシャンでは会社の体力が消耗し最悪の場合、倒産する可能性もある。これを防ぐためには、競合他社がいない市場「ブルーオーシャン」を見つける必要がある。
そのブルーオーシャンを生み出す戦略をブルーオーシャン戦略という。ブルーオーシャン戦略では新しい市場を創り出すために、まずターゲットを絞り、今やっていることから何を取り除いて、何を減らすかを考える。そして、代わりに何をつけ加え、何を増やすかを考えることで自社だけが提供できるモノを作り新しい市場をつくる。
たとえば、前述のジョギング専用ウォッチであれば、まずはマラソン好きにターゲットを絞った。心拍トレーニングのための心拍数モニターを搭載したり、走りながらでも心拍数が確認しやすいように文字盤に数字を大きく表示した。その分バッテリーの減りも早い。しかし、ジョギングに必要な機能を搭載したことでジョギング専用ウォッチという商品が生まれ、「腕時計で体力を強化する」という新市場を創り出すことに成功したのだ。
著者の友人がベンツを購入した後、雑誌のベンツの広告を何度も読んでいることに著者は気づいた。ベンツのような高い買い物をした後、「高い買い物だったけど、いい買い物だった」という思いと、「でも実は間違いだったんじゃないか?」という不安がある。ベンツの広告を読むのは「やはり自分はいい買い物をした。よかった」と自分を納得させるためなのだ。これを認知的不協和の解消と呼ぶ。
「やっぱり買ってよかった」と認知的不協和が解消された顧客はその後も継続的に「顧客」になってくれる。その点、メルセデス・ベンツ社は販売してからのフォローがうまい。ベンツオーナーになるとその直後から、オーナーだけが観ることができる会員専用サイトが使えるようになったり、オーナーだけが集まるコミュニティに入ることができる。他にも走行距離が10万キロ以上、または保有期間が10年を超えたお客さんを表彰し、特別エンブレムを贈呈する「オーナー表彰制度」があり、購入後3年間は24時間365日のサポートサービスが無料で顧客に提供される。顧客に「やっぱり買ってよかった」と思わせ、継続的なファンになる「顧客」を育成しているのだ。
企業にとって顧客は1種類ではない。顧客のブランドへの思い入れ度=顧客ロイヤルティで分類できる。「潜在客→見込客→新規顧客→リピーター→贔屓客→ブランド信者」となる。この顧客ロイヤルティが高い顧客は企業に莫大な利益をもたらす。ベンツのリピーターや贔屓客は他社の車に乗り換えず、最新のベンツに買い替えてくれる。ブランド信者になると知り合いにもベンツを勧める。1人の顧客が生涯にわたって企業にもたらす価値(顧客生涯価値)は莫大だ。
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