マシュマロ・テストとは、子どもに対して、今すぐマシュマロを一個もらうか、少し待ってマシュマロを二個もらうかを選ばせる実験のことである。実験の結果、長時間待つことのできる子どもがいるのに対し、ほとんど待つことのできない子どももいた。この分かれ目となる心や脳のメカニズムは何なのか。どのような条件下で自制が容易になったり困難になったりするか。これらを突き止められれば、自制心の向上に役立てられる。
著者は機能的磁気共鳴画像法(fMRI)などの方法を使って、マシュマロ・テストの参加者の脳の動きを調べた。すると、マシュマロの誘惑にうまく抗えた人とそうでない人とで、前頭葉と線条体を結ぶ脳の神経回路網の活動がはっきり異なっていることがわかった。
誘惑に抗えた人の場合、効果的な問題解決や創造的思考、衝動的な行動のコントロールに使われる前頭前皮質領域の活動が活発だった。一方、そうでなかった人の場合、欲求や快楽と結びついている腹側線条体の活動が盛んだった。この結果から、誘惑に抗えた人はより優れた心的ブレーキを持っていることがわかる。では、より優れたブレーキを持っている人は、どのようにそのブレーキを働かせるのだろうか。
まず、マシュマロを長く待てる子どもは、マシュマロから気をそらそうとした。手で目を覆ったり顔をそむけたり、歌を歌ったりして報酬そのものから距離を取ろうとする。現に、報酬がむき出しになっているのとそうでないのとでは、マシュマロを待てる時間は平均して約十倍違うことがわかった。また、報酬をより抽象化するため、マシュマロ本体ではなく代わりにマシュマロの写真を置いてみたところ、待てる時間は二倍近く延びた。
あらゆる刺激には相反する二つの側面がある。情動や欲求に直接結びついており、人を興奮させる側面と、抽象的で認知に関わる情報としての側面である。前者はマシュマロの食感や甘さを自動的に想起させるのに対し、後者はマシュマロの白さや丸さ、柔らかさを叙述的に思い起こさせる。
よって、刺激が人間にどのように影響を与えるかは、私たちがその刺激を頭の中でどのように思い描くかで違ってくる。本書では直感的にわかりやすいよう、前者を「ホット」、後者を「クール」と呼ぶ。
子どもたちは「ホット」な特徴に目を向けるように仕向けられればマシュマロを待つことが困難になる。一方、「クール」な特徴に目を向けるように仕向けられればマシュマロを待つことが容易になった。また、マシュマロ以外のものを「ホット」に考えさせるよう仕向けると、子どもたちはマシュマロから気をそらすことができた。つまり、「ホット」な対象を「クールに冷却」できたのである。
さらには、その時に感じている情動が冷却の可否に影響することもわかった。つまり、悲しいことを考えている時は待つのが困難で、楽しいことを考えている時は待つのが容易になる。このように人の反応は、刺激そのものが持つ力ではなく、刺激が頭の中でどのように評価されるかで決まる。つまり評価の仕方を変えれば、感じ方や行動も変わるのである。
ホットな情動システムが活発になる時は、大脳辺縁系が活発に働いている。この部位はヒトの進化の初期に発達したもので、恐れや怒り、食欲や性欲といった生存に不可欠な基本的要因や情動を調整する。これによって、快感や苦痛、恐れといった情動が自動的に生じ、素早い反応が可能となる。誘惑のホットな特徴に注目した場合は、この反応が引き起こされる。
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