マシュマロ・テスト
マシュマロ・テスト
成功する子・しない子
マシュマロ・テスト
出版社
出版日
2017年06月15日
評点
総合
4.0
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
4.5
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おすすめポイント

マシュマロ・テストは、行動心理学のみならず、社会科学全般においてもっとも有名な実験のひとつである。幼少時にマシュマロを二個もらうために長い時間待てた子どもの方が、そうでない子どもより将来的に学力が高くなり、社会的に成功し、ストレスにうまく対処できるようになる。こうした驚きの結果を導いた実験がマシュマロ・テストである。この実験の考案者であるウォルター・ミシェルが、膨大な研究結果をもとに自制のメカニズムを解明した一冊と聞けば、読まずにはいられない。

人間の自制心は生まれつきのものか、育ちに左右されるのか。こうした議論の的となっていた問題に対して、著者は、遺伝子と環境が互いに影響を与え合っているという答えを明確に示している。そのうえで、何が自制を可能にし、あるいは無効にするのか、自制を可能にするためにはどんな手続きが有効なのかを、わかりやすく解説してくれる。こうして目標達成に向けて「真に効果のある努力」が浮き彫りになっていく。

世の中にハウツー本は溢れているが、科学的な根拠や理論に基づいたものは、どちらかといえば少数派だ。その少数派に「読みやすさ」というハードルを課すと、さらにパイは小さくなる。本書は、その小さなパイに分類される貴重な書物である。

何より重要なことは、本書が読者に希望を与えうるということである。特に、生まれ持った自分の性質に苦しみ、本意ではない判断を繰り返してしまっている人にとっては、人生を変える手がかりを得られるのではないだろうか。

ライター画像
山田宗太朗

著者

ウォルター・ミシェル
Walter Mischel
1930年、ウィーンに生まれる。ナチスから逃れるため幼少時にアメリカへ移住。コロラド大学、ハーバード大学、スタンフォード大学で教鞭をとったのち、現在はコロンビア大学の心理学教授を務める。専門はパーソナリティ理論、社会心理学で、本書のテーマでもある「マシュマロ・テスト」の生みの親として世界的に著名。2014年に発表された本書は初めての一般向けの著作。2015年、社会に大きな利益をもたらす連邦資金受給基礎研究に贈られるゴールデン・グース賞を受賞した。

本書の要点

  • 要点
    1
    マシュマロ・テストでマシュマロを二個もらうために長い時間待てた子どもほど、自制心を発揮しやすく、ストレスにうまく対処でき、社会的に成功できる可能性が高いことが判明した。
  • 要点
    2
    人間にはホットな情動システムと、クールな認知システムがある。自制を促すには後者を働かせることが肝となる。
  • 要点
    3
    自制心は、遺伝子と環境との二つの要因が相互に関係し合うことによって育まれる。
  • 要点
    4
    自制を成功に導くには、自己効力感と、将来の自分と今の自分を想像の中で結びつける力が重要となる。

要約

【必読ポイント!】 自制を可能にするメカニズムとは?

誘惑に抗える人、抗えない人
58shadows/iStock/Thinkstock

マシュマロ・テストとは、子どもに対して、今すぐマシュマロを一個もらうか、少し待ってマシュマロを二個もらうかを選ばせる実験のことである。実験の結果、長時間待つことのできる子どもがいるのに対し、ほとんど待つことのできない子どももいた。この分かれ目となる心や脳のメカニズムは何なのか。どのような条件下で自制が容易になったり困難になったりするか。これらを突き止められれば、自制心の向上に役立てられる。

著者は機能的磁気共鳴画像法(fMRI)などの方法を使って、マシュマロ・テストの参加者の脳の動きを調べた。すると、マシュマロの誘惑にうまく抗えた人とそうでない人とで、前頭葉と線条体を結ぶ脳の神経回路網の活動がはっきり異なっていることがわかった。

誘惑に抗えた人の場合、効果的な問題解決や創造的思考、衝動的な行動のコントロールに使われる前頭前皮質領域の活動が活発だった。一方、そうでなかった人の場合、欲求や快楽と結びついている腹側線条体の活動が盛んだった。この結果から、誘惑に抗えた人はより優れた心的ブレーキを持っていることがわかる。では、より優れたブレーキを持っている人は、どのようにそのブレーキを働かせるのだろうか。

まず、マシュマロを長く待てる子どもは、マシュマロから気をそらそうとした。手で目を覆ったり顔をそむけたり、歌を歌ったりして報酬そのものから距離を取ろうとする。現に、報酬がむき出しになっているのとそうでないのとでは、マシュマロを待てる時間は平均して約十倍違うことがわかった。また、報酬をより抽象化するため、マシュマロ本体ではなく代わりにマシュマロの写真を置いてみたところ、待てる時間は二倍近く延びた。

ホットとクール、刺激の二つの側面

あらゆる刺激には相反する二つの側面がある。情動や欲求に直接結びついており、人を興奮させる側面と、抽象的で認知に関わる情報としての側面である。前者はマシュマロの食感や甘さを自動的に想起させるのに対し、後者はマシュマロの白さや丸さ、柔らかさを叙述的に思い起こさせる。

よって、刺激が人間にどのように影響を与えるかは、私たちがその刺激を頭の中でどのように思い描くかで違ってくる。本書では直感的にわかりやすいよう、前者を「ホット」、後者を「クール」と呼ぶ。

子どもたちは「ホット」な特徴に目を向けるように仕向けられればマシュマロを待つことが困難になる。一方、「クール」な特徴に目を向けるように仕向けられればマシュマロを待つことが容易になった。また、マシュマロ以外のものを「ホット」に考えさせるよう仕向けると、子どもたちはマシュマロから気をそらすことができた。つまり、「ホット」な対象を「クールに冷却」できたのである。

さらには、その時に感じている情動が冷却の可否に影響することもわかった。つまり、悲しいことを考えている時は待つのが困難で、楽しいことを考えている時は待つのが容易になる。このように人の反応は、刺激そのものが持つ力ではなく、刺激が頭の中でどのように評価されるかで決まる。つまり評価の仕方を変えれば、感じ方や行動も変わるのである。

ホットな情動システム、クールな認知システム
Pilin_Petunyia/iStock/Thinkstock

ホットな情動システムが活発になる時は、大脳辺縁系が活発に働いている。この部位はヒトの進化の初期に発達したもので、恐れや怒り、食欲や性欲といった生存に不可欠な基本的要因や情動を調整する。これによって、快感や苦痛、恐れといった情動が自動的に生じ、素早い反応が可能となる。誘惑のホットな特徴に注目した場合は、この反応が引き起こされる。

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要約公開日 2017.08.31
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