2017年は「電機敗戦の年」として刻まれることになるだろう。
米国にある東芝の原発子会社であるウェスチングハウスが、米連邦倒産法第11章(チャプターイレブン)の適用を申請し、事実上倒産した。米原発市場で総額1兆円の損失を出した東芝は、すでに白物家電事業を中国の美的集団に売却しており、主力の半導体事業も今後売却する計画だ。
2011年の東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故の影響で、国内の原子力発電所の新設は絶望的になった。東芝は事実上の破綻状態を隠すため、粉飾決算に走ったが、内部告発で露見。解体の道を走ることになる。
東芝のみならず、シャープは台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入り、三洋電機の白物家電事業は中国のハイアール・グループに買収された。かつて半導体の売上高で世界一を誇ったNECも、2017年3月期の売上高を3兆円以下に減らしており、売上高5兆4000億円を超えた2000年度と比べると、ほぼ半減している。
また、パナソニック(松下電器産業、三洋電機、松下電工)の2014年3月期の売り上げは7兆7365億円だったが、2007年3月期の12兆9908億円と比較すると、こちらも大幅に落ち込んでいる。
日本の電機大手が、家電や携帯電話のトップの座から転がり落ちた理由を一言でいえば、それが絶対に負けられない「本業」ではなかったからだ。彼らには、「NTTの下請け」という安定した収益を出せる本業があったのである。
国民から集められた何兆円もの電話料金はいったんNTTに集まり、そこから「電電ファミリー」ともいわれる企業に「設備投資」という形で流れるようになっていた。NTTなら値段をたたくこともなければ、発注が突然減ることもない。ファミリー企業にとっては「上客」だったというわけだ。こうした企業はNTTには可愛がられた。しかしその一方で、自分の頭で考え、決断する能力を失ってしまった。
日本の電機産業を弱体化させたもう一つの病巣は、東京電力が「家長」として君臨し、東芝を「正妻」とする「電力ファミリー」だった。旧通産省と電力会社が全体図を描き、東芝、日立、三菱重工業など重電メーカーが設備を作り、それに電線や電力計のメーカーがぶらさがるという構図である。各社は特定の電力会社と結びつき、長年にわたって安定した受注を獲得していた。
電力設備投資の総額は1980年代初頭、産業界全体の設備投資の約4割を占めたとされる。しかし、日米貿易摩擦や日米構造協議で、日本の総合電機の競争力の源泉となっていた談合構造が問題視されるようになった。自由化が叫ばれ、米国製の半導体や通信機器などを買わせる動きも生まれた。これにより、電電ファミリーは大きな打撃を受けた。
さらに、2008年のリーマン・ショックがその流れに追い打ちをかけ、2011年の東京電福島第一原子力発電所原発事故が、原発の安全神話を支えてきた電力ファミリーの技術面の限界を露呈させた。これにより、巨額の賠償金を背負う東京電力からの「ミルク補給」が受けられなくなった電力ファミリーも崩壊した。
戦後の日本の電機産業を支えてきた、この2つの産業ピラミッドが瓦解したことが、「電機全滅」の最大の要因となった。
ただ、日本の電機産業が復活する可能性はある。今、試されているのは「変化する力」だ。
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