脳はなぜ都合よく記憶するのか

記憶科学が教える脳と人間の不思議
未読
脳はなぜ都合よく記憶するのか
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未読
脳はなぜ都合よく記憶するのか
ジャンル
出版社
出版日
2016年12月13日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
4.2
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おすすめポイント

記憶のエラーはどのように起こるのか――それを知りたければぜひ本書を手にとってみてほしい。

本書には数多くの疑問と、それに対する解答が詰まっている。なぜありえない出来事を記憶するのか、なぜ完璧な記憶力を持てないのか、睡眠学習やベビーメディアは本当に効果があるのか、なぜ自分の記憶を過信するのか、なぜ衝撃的な出来事をまちがえて記憶するのか、ソーシャルメディアは記憶にどのような影響を及ぼすのか、誤った記憶が原因の不当な有罪判決を防ぐにはどうすべきか……。

こうした記憶に関する疑問を、著者はひとつひとつ解説する。記憶エラーに関する具体例も多数紹介されているため、この分野に明るくなくても、無理なく読み進めることができるだろう。

もしかしたら、あまりにも多くの記憶エラーが私たちの日常で起こっているかを知り、落胆してしまうかもしれない。しかし、いかに記憶が曖昧で信用ならないものだといっても、過度に落ち込む必要はないと著者はいう。「過去が曖昧だからこそ、現在に注目すべきだ」という著者のメッセージは、ポジティブでどこかあたたかい。本書を読めば、記憶との上手な付き合い方が見えてくるはずだ。

記憶や脳の仕組みについて、基本的な事項から直近の研究成果にいたるまで、わかりやすく学べる良書である。

ライター画像
池田明季哉

著者

ジュリア・ショウ (Julia Shaw)
ロンドンサウスバンク大学法社会学部上級講師、研究者。感情的な出来事を経験したときに起こる記憶エラー、いわゆる「豊かな過誤記憶」を研究する世界でも数少ない研究者のひとり。さまざまな学術誌に研究論文を発表。「サイエンティフィック・アメリカン」誌にも定期的に寄稿し、世界中で講演、学会発表を行っている。大学および大学院で行う講義に対し、優秀賞を2度受賞。企業や警察の研修、犯罪者の更生プログラムにも関わり、過去の虐待事件の捜査に助言を与えている。

本書の要点

  • 要点
    1
    赤ちゃんにも記憶はあるが、成人期まで残るような記憶は形成できない。よって、幼年期の記憶を覚えていることはありえない。
  • 要点
    2
    人間の脳は不正確な記憶を形成することがある。「まったくまちがいのない記憶」はほとんどない。
  • 要点
    3
    記憶を言語化すると、その記憶を損なってしまったり、歪めてしまったりするおそれがある。
  • 要点
    4
    過誤記憶が、不当な有罪判決を招いている。
  • 要点
    5
    記憶は誤りが多いと理解しておくべきだ。そうすれば、過去は一種の作り話であり、過度にとらわれる必要もなくなる。

要約

不正確な記憶

幼年期の記憶は成人期まで残らない

赤ちゃんだった頃や子宮にいた頃の記憶があると主張する人がいる。しかし、実はそのようなことはありえない。というのも、幼児や乳児は脳構造が未発達で、何かを記憶すること自体は可能だが、成人期まで残る記憶を形成することはできないのだ。

小さい頃の記憶を持っている人がいるのは、イメージしたことを実際に起こったことだと思いこんでしまっているからである。親から聞いた話や昔の写真などの情報源から、それらしい場面を思い浮かべると、記憶の隙間を埋めるため、無意識のうちに脳が情報の断片を自分の納得のいくようにつなぎ合わせてしまう。

こうしてできあがった「記憶」は、まるで本物の記憶のように感じられる。これが幼年期の記憶の正体である。

記憶と覚醒度には関係がある
SIphotography/iStock/Thinkstock

1990年、ロンドン大学ユニバーシティカレッジでとある実験が行なわれた。それによると、物事を覚えるときと思い出すときに同じことを体験すると、思い出しやすくなるという。たとえば、情報を覚える直前に苦痛を味わった人は、それを思い出す直前にふたたび苦痛を味わうと、記憶テストの成績が向上する。

また、記憶として何を貯蔵できるか、のちにそれをどう検索できるかには、ストレスや覚醒度も大きな役割を果たしている。人の記憶は覚醒度などの内部環境や、知覚する外部環境からも影響を受けているのだ。

完璧な記憶がないのはなぜか

過誤記憶

人は間違った記憶、いわゆる「過誤記憶」を形成してしまうことがある。なぜ脳は記憶のエラーを起こしてしまうのだろうか。

生物的、科学的な観点から見て、人の脳が驚異的な能力を有しているのはまちがいない。しかし、その脳に組み込まれたメカニズムが、ある段階で記憶の幻想を生じさせ、結果的に過誤記憶が形成されてしまう。つまり、人間のもつ創造的で適応力のある記憶システムが、過誤記憶を引きおこしているのである。過誤記憶は豊かな心の代償である。

完璧な記憶力を持つ人はいない
maaram/iStock/Thinkstock

驚異的な記憶力を持つ人はたしかに存在する。日付の曜日や、人生のあらゆる日に起こった出来事を詳しく思い出せる能力を持つ人たちだ。彼らはHSAM (Highly superior autobiographical memory individuals: 非常にすぐれた自伝的記憶を持つ人)と呼ばれ、今では世界中に56名のHSAMが確認されている。しかし彼らが驚異的な記憶力を発揮するのは自伝的なことに限られ、他の情報について覚えることは得意ではない。

逆に、自伝的なことを覚えるのは極端に苦手だが、特定の事実と情報についてすさまじい記憶力をもった人たちがいる。彼らは「サヴァン」と呼ばれている。サヴァンの記憶力は本質的にHSAMの正反対だ。

いずれにせよ、HSAMにもサヴァンにも、

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要約公開日 2017.08.14
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