企業や役所の不祥事、長時間残業に象徴されるブラックな職場、女性活躍推進の実効性の低さ。こうした問題が解決されないのは、個人が組織や集団から分化されていないという根本の課題に手つかずになっているためだ。
分化とは、個人が組織や集団から制度的、物理的、あるいは認識的に分別されている状態を指す。一方、未分化とは、個人が組織や集団の中に溶け込み、埋没してしまっている状態を意味する。分化には程度の違いがある。例えば独立や在宅勤務の導入は強い分化であり、職場での仕事の分担の明確化やフレックスタイム制の導入は比較的弱い分化に、そして「のれん分け」や「社内FA制度」などはその中間に位置づけられる。
社員の過労自殺や不適切な会計処理といった、大企業による組織ぐるみの不祥事が相次いでいる。官庁や警察でもガバナンスの欠陥が厳しく指摘されて久しい。こうした不祥事の背景には、日本企業特有の組織構造が成員に圧力をかけるという共通点がある。その組織構造とは、共通利害と濃密な人間関係で結びついた、内向きな「共同体型組織」を指す。
共同体型組織では、成員は「会社を守るため」といった大義名分のもと、過度な忠誠心や貢献が求められる。個人の職務と権限が明確に決まっていないため、人事評価には上司の主観、しかも態度や意欲といった情意面が入りやすい。こうした状況下では、部下は無制限の忠誠を示すべく、場合によっては不正に手を染めることがあるのだ。
さらには、「集団無責任体制」も不祥事を誘発する要因となっている。非公式な場での空気や、あうんの呼吸によって実質的な意思決定がなされるため、責任の所在があいまいになっていく。しかも、人間関係が濃密であるために、上司や仲間の不正を見逃すようになってもおかしくはない。
共同体型組織の中の空気は、世間的常識といった「外気」の影響をさほど受けない。不祥事対策のために管理強化が謳われたところで、成員は組織の論理を優先し、ますます上司の顔色をうかがうようになるだけだ。このように、不祥事が発生し、その防止がうまくいかない理由にも、個人の未分化が深く関係している。
過労死や長時間労働の問題を撲滅できないのも、個人の未分化による社会的・心理的プレッシャーが大きく影響している。長時間労働が常態化している職場では、上から与えられた目標達成に向け、社員が一丸となって無理をしている様子が見てとれる。集団的な職務編成のもとでは、誰かが早く帰ったり、有給休暇を取ったりすると、
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