進化しすぎた脳の表紙

進化しすぎた脳

中高生と語る「大脳生理学」の最前線


本書の要点

  • 大脳皮質は決まった六層構造をもっているにもかかわらず、場所によって分業が行われている。この性質が解明されたことで「ラジコンネズミ」が実現した。

  • 能力のリミッターは「脳」ではなく「身体」にある。もし人間が20本指だったとしても、脳はそれに対応できるだろう。

  • 私たちはすでにある世界を見ているのではない。脳が世界をつくっているのだ。また、自分の判断ですら無意識な脳の支配を逃れられない。

  • 進化した動物ほど記憶はあいまいだ。これは神経細胞どうしのつなぎ目で起こる反応のあいまいさで説明できる。

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ラジコンネズミはどうつくる?

能力のリミッターは「脳」ではなく「身体」

Ingram Publishing/Thinkstock

2002年にかの有名な『ネイチャー』に掲載された、たった2ページからなる論文。タイトルは「ネズミをラジコンにした」―生きているネズミを人間が自在に操縦できるという内容だ。ついに人は、他の動物をロボットのように扱える時代が到来したのだ。動物愛護の観点はここでは割愛し、この論文から生まれる疑問「どのようにしてネズミを生きたまま操縦したのか?」、さらに「ロボットと動物を分かつのは何か?」、「コンピュータと人間の脳はいったい何が違うのか?」を通し、脳の正体に迫っていく。物語の舞台は「大脳皮質」だ。脳の一番外側にあたる部分で、140億個もの神経細胞がぎっしりとつまっている。脳は場所によって役割が異なり、視覚を司る「視覚野」、聴覚を司る「聴覚野」、触覚を司る「体性感覚野」などに分かれている。さらに「体性感覚野」の中でも、足指、足首、膝、しり、胴部…と体の各部に対応して働く部分が分かれている。神経細胞の活動は、電気信号で制御されている。そのため電極を使って脳を刺激する実験がよく行われる。たとえば「運動野」のある部分を刺激すると指が動き、別な場所が刺激されると足が動くという具合だ。意思とは無関係なので、ある場所を刺激された人は「なぜか勝手に足が動いてしまう」ということが起こる。ここで冒頭の、「ラジコンネズミをどうやって作ったのか」に話を戻そう。実はネズミの脳には3つの電極が刺してある。そのうち2つは左右のヒゲを感じる部分に刺激を与えていて、一方を刺激すると「右側のヒゲが触られた」、他方を刺激すると「左側のヒゲが触られた」と感じる。そして最後の1本が刺さっているのが「報酬系」という部分。ここが刺激されると、ネズミはものすごい快感を感じる。そして、ネズミが右側のヒゲが触られたと感じて右に動くと、報酬系が刺激されるリモコンを作る。左も同様だ。するとネズミは、餌も水も全て無視し、いまヒゲが感じた方向に移動することだけを実行する。これがリモコンネズミの仕組みだ。次に「コンピュータと人間の脳の違い」を考えてみる。生まれながらにして、指と指がつながって、4本指の人がたまにいる。この人の脳を調べると、5本目に対応する場所がない。つまり、人間の脳はあらかじめ5本指に対応していたのではなく、指が5本あったからそれに対応する脳の部分ができた、ということになる。さらに、指が4本だった人が分離手術をして5本指になると、1週間後にはもう、脳には5本目の指に対応する場所ができてくる。つまり、脳の分業は脳が決めているのではなくて「身体」が決めている。ここがコンピュータと脳との決定的な違いだ。コンピュータの実体は、キーボードやマウスを取り外してしまっても変わらない。しかし脳の場合、例えば腕を取ってしまうと脳が変わってしまう。生まれ持った身体や環境に応じて脳は「自己組織的」に自分をつくり上げていく。そんな人間の脳に対し、筆者は「宝の持ち腐れだ」という。

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要約公開日 2014.03.20
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