未来型国家エストニアの挑戦 電子政府がひらく世界

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出版社
インプレスR&D

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出版日
2017年02月17日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

日本でマイナンバー制度が運用され始めてから、約2年が経過した。国民に数字をあてがうという「管理社会」への反発もあり、法案成立・運用までには膨大な時間を要した。そもそも日本政府は、2001年に「e-JAPAN戦略」を開始し、情報通信技術(ICT)国家になることを目標に掲げてきた。しかし、いまだインターネットを通した行政サービスが定着しているとはいえない。

これに対し、エストニアは、旧ソ連独立からわずか10年足らずでeIDカード(日本のマイナンバーカードに準ずる)を全国民へ配布し、数年で定着させた。人口わずか130万人の小国が、電子立国として今、世界中から注目を浴びている。市民生活から行政サービスに至るまで、電子化の浸透ぶりには目を見張る。90年代初めよりインターネットを使った行政改革を進めていったエストニア政府。官民一体となり、国のインフラよりもネット環境の整備を優先させたことは、先見の明があったといえよう。

本書には、エストニアがどのように国家レベルで電子化を進めていったのかが、非常にわかりやすく解説されている。eIDカードやICT共通基盤となるX-Roadの有益性がよく理解できるだろう。そしてその前提となる、エストニアの政治の透明性にも注目したい。

国の規模や内情は違えども、日本がエストニアから学べる点は数多くあるはずだ。電子国家エストニアの魅力が詰まった本書を、まずは気軽に手にとっていただきたい。

ライター画像
矢羽野晶子

著者

ラウル アリキヴィ(Raul Allikivi)
日本・エストニア/EUデジタルソサエティ推進協議会 理事
1979年エストニア生まれ。タルトゥ大学卒業後、早稲田大学の修士課程を修了する。エストニア 経済通信省 局次長を経て民間へ。前職では、エストニア経済通信省(Ministry of Economic Affairs and Communications)の経済開発部で局次長を務める。同省では2020年に向けたエストニア情報社会のための新たな戦略と政策の設計などを担当。現在は日本に暮らし、エストニア行政での経験と知識を生かしてコンサルティング会社ESTASIAを2012年12月に設立し、アジアにエストニアの行政システムなどを紹介している。2013年には日本のクラフトビールを欧州へ輸入するBIIRUを設立。2016年はIoT系スタートアップ企業を設立して活動予定。

前田 陽二(まえだ ようじ)
日本・エストニア/EUデジタルソサエティ推進協議会 代表理事
1948年富山市生まれ。早稲田大学理工学部電子通信学科卒業後、同大学理工学研究科修士課程を修了。三菱電機株式会社に入社し、文字・画像認識分野の研究開発に従事した後、2001年~2009年にECOM(次世代電子商取引推進協議会)に出向し電子署名および認証の分野を中心に調査研究に従事。2010年~2013年、一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)主席研究員、2005年~2014年、はこだて未来大学(夏季集中講座)非常勤講師。工学博士。共著に『IT立国エストニア-バルトの新しい風』(慧文社)、『国民ID制度が日本を救う』(新潮新書)他。

本書の要点

  • 要点
    1
    エストニアが電子立国として成功している背景には、eIDカードを国民に義務化したこと、ICT共通基盤としてX-Roadを構築したことがある。
  • 要点
    2
    電子化を進めるカギは政治の透明性と、政府と国民の信頼関係にある。
  • 要点
    3
    エストニアは、国内に居住していない人へのeレジデンシーカードの発行を開始し、それが仮想国家への重要な一歩となっている。
  • 要点
    4
    ICT環境整備は日本においても必須の課題といえ、長期的な戦略を立てることが求められる。

要約

電子立国エストニア

電子国家への道、eIDカードの発行
dk_photos/iStock/Thinkstock

バルト三国の一国として知られるエストニア。九州より少し広い国土に、福岡市とほぼ同数の約131万人が暮らす北欧の小さな国だ。このエストニアが今、電子立国(e-country)として世界から注目を集めている。

エストニアは1991年に旧ソ連より独立した。独立後すぐ、政府は誰がエストニア市民であるかの確認作業を始めた。人口密度の低いエストニアでは、市民サービスを国土の隅々まで提供することは経済的に難しい。エストニア政府は、インターネットの普及が重要だと考えた。

インターネット上のサービスを受けるには、まず操作する人間の認証(本人確認)が必要だ。そこで注目したのは、隣国フィンランドで配布されている、ICチップ搭載のIDカード(eIDカード)だった。eIDカード発行の前提条件として、国民ID番号、いわゆるマイナンバーが国民にあてがわれることだった。北欧の国々では、数十年前より国民ID番号が存在し、広く普及していた。そのため、特に混乱は起きなかった。

かくしてエストニアでは、2002年よりeIDカードが配布され、所持が義務化された。これが電子国家エストニア(eエストニア)を構築する大きな基盤となったのだ。

なぜ電子化に成功したのか

eIDカードの配布からほんの数年で、電子署名やインターネット投票など、様々な新サービスが開発された。エストニアでは、日々の生活やビジネス取引で、書面よりも電子的なやりとりが大きな割合を占める。にもかかわらず、eIDカードがハッキングされた、または電子署名が偽造されたと、いう声は聞かない。

電子化はエストニアの経済発展にも大きく寄与している。その証拠として現在、旧ソ連から独立した国々の中でエストニアの平均賃金はトップを誇る。しかも2位との差は約30%もある。

エストニアが電子立国を築くうえで、心掛けた原則・考え方は以下の通りだ。

・強力な技術と法的基盤を築く。

・情報社会の構築は政治的な問題ではなく、技術的な問題だと捉える。

・ITの改革が浸透するまでには時間と忍耐が必要となる。(エストニアは5年かかった。)

・大規模なICT(情報通信技術)改革は、官民一体で行う。

ICTの改革は、人口の多寡にかかわらず実行可能である。大量の情報処理はICTの得意分野であり、国民の間で合意形成が進めば、人口という「量」の問題は克服できるはずだ。

市民生活と電子政府
Natali_Mis/iStock/Thinkstock

エストニアでは、インターネット利用は国民の基本的権利とされている。よって、レストランやガソリンスタンドなど、公共の場にも無料WiFiが設置されている。

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要約公開日 2018.02.26
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