AIとBIはいかに人間を変えるのか

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AIとBIはいかに人間を変えるのか
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出版社
出版日
2018年02月28日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

未来を左右する2大キーワード、AI(人工知能)とBI(ベーシック・インカム)。両者がどのように関連し合い、人間の生き方、経済・社会構造を変革していくのか。その壮大な見取り図を、ここまで鮮やかに描き出した一級の書に出合えたことに、ただただ幸運を感じる。

もしもAIが人間の知識・頭脳労働を圧倒的に凌駕し、ほぼすべての生産活動を担うようになったら? そのとき、大多数の人間はやることがなくなり、所得を失う。さらには、AIを所有する資本家だけが富を独占し、社会を支配する――。こんなディストピアのシナリオを避けるために、救世主的な存在となるのがBIだという。BIには社会保障政策、景気政策としても大きなメリットがある。しかし、財源はどこに求められるのか。フリーライダーが増えるのではないか。こうした懸念点をどう解決していくかについても、著者は明快なロジックと根拠を積み上げ、論を展開していく。説得力ある提言には、BIの実現可能性がここまで高いものかと驚かされる。同時に、導入のネックになっている最たるものは、「働かざる者、食うべからず」という、豊かな現代においてもなお人間の心に根づく社会規範ではないかと思わされる。

もはや働く必要がない世界は、本来の自由と心の豊かさを、私たちにもたらしてくれるのか。はたまた、新たな苦難を生むのか――。どんな未来が待つにせよ、ルネサンスに匹敵するインパクトをもった歴史的転換に立ち会えると思うと、心躍らずにいられない。

AIとBIの社会で人間はどう生きるのか。究極のテーマに真正面から向き合った意欲作を読み、新たな世界の地平を駈けていただきたい。

ライター画像
松尾美里

著者

波頭 亮(はとう りょう)
経営コンサルタント。1957年、愛媛県生まれ。東京大学経済学部(マクロ経済理論及び経営戦略論専攻)を卒業後、マッキンゼー&カンパニー入社。1988年独立、経営コンサルティング会社(株)XEEDを設立。
幅広い分野における戦略系コンサルティングの第一人者として活躍する一方、明快で斬新なビジョンを提起するソシオエコノミストとしても注目されている。

本書の要点

  • 要点
    1
    BIは、格差・貧困問題の解決策として前向きに検討すべきである。
  • 要点
    2
    導入の懸念点である「フリーライダー」や「財源確保」といった問題も解決可能だ。
  • 要点
    3
    AIが生産活動のほとんどを担う時代においては、「再分配」が重要となる。再分配施策のなかで、最も民主主義的で経済合理性があるのがBIである。
  • 要点
    4
    BIの導入によって、人々は「生きるための労働」から解放され、純粋に豊かさを求める活動に従事できるようになる。

要約

ベーシック・インカム(BI)の仕組みと効力

格差・貧困問題を解決に導く施策、BI
stevanovicigor/iStock/Thinkstock

経済成長が踊り場を迎えた先進国では、格差と貧困が社会問題となって久しい。政府はさまざまな経済施策や、社会保障・社会福祉の充実によって対処をめざしている。しかし、根本的な問題は解決しないどころか、深刻化する一方だ。

この状況を打破する施策として、世界中から注目を集めているのが「ベーシック・インカム」(以下、BI)である。BIは「健康的で文化的な最低限度の生活を営む」ために、国民全員に現金で与えられる基礎的給付のことだ。

日本のように、少子高齢化と人口減少が進む国では、経済構造・社会構造を抜本的に立て直す必要がある。そのなかで、BIは前向きに検討されるべき施策だというのが、著者の見解だ。

まずは、BIの有効性と、導入の懸念や障壁の乗り越え方に関するポイントを述べていく。

5つの制度的長所

BIは、全国民に一律かつ、永続的に給付されるという特徴をもつ。従来の日本の社会保障制度と比べて、BIの制度的長所は次の5つである。

1つ目は、仕組みのシンプルさだ。査定や計算も不要で、受給漏れも起きない。

2つ目は、運用コストが小さい点である。審査の複雑なルールを運用する人手や手間がかからないためだ。

3つ目は、恣意性と裁量が入らない点である。現行の制度では、貧困者には貧困対策、失業者には失業対策、といったニーズ対応型のサービスを提供している。そのため、家庭訪問や聞き取り調査など、定性的判断によって給付の可否が決められている。その点、BIでは恣意性と裁量が入る余地がなく、フェアな給付が可能となる。

4つ目は、人々の働くインセンティブが失われないという点だ。現行の生活保護制度と違って、追加的に労働収入を得ても、BIの場合、給付額は減額されない。

また、生活保護受給の審査では、個人的事情に立ちいった詮索がなされることもある。BIの場合は、こうした個人の尊厳を傷つけるようなやりとりが生じず、個人は堂々と本来の額を受給できる。これが5つ目の長所である。

経済活性化にも有用なBI

BIには、景気対策としても有用という、マクロ経済的なメリットもある。日本の消費動向は、この20年間ずっと停滞している。数々の財政政策や金融政策がほとんど奏功していないのはなぜか。それは、これらの政策が大企業や富裕層を豊かにする一方、国民のほとんどにあたる、中間層、低所得層の生活を苦しくさせるものだったからだ。

グローバル化が進んだ現在では、大企業や富裕層に貯まった資金は、国外の高成長市場に再投資される。そのため、富裕層を富ませることで国全体が豊かになるという、トリクルダウン理論はもはや通用しない。こうした状況下で経済成長を促すには、富裕層から低所得層へと富を移す「再分配」により、低所得層の消費活動を後押しすることが欠かせない。

また、BIは企業にもメリットをもたらす。BIが失業者の公的なセーフティネットの役割を担うことで、解雇規制の緩和や雇用保険の軽減などが期待できるのだ。企業はより合理的な市場対応ができるだろう。

社会保障機能や経済活性化。こうした現実的メリットにくわえ、BIは人間の生き方にもプラスの影響をもたらしてくれる。これについては後述する。

BI導入、制度上の懸念点とは?
SARINYAPINNGAM/iStock/Thinkstock

BIには否定的な意見や実現に向けた懸念の声も聞かれる。しかし、BIの導入実験の成果から得た知見をもとに、それらがどれも解決可能であることを著者は明らかにしていく。

まず、制度の設計上、BI導入への懸念点として次の2つが挙げられる。それは、働かない人を増やしてしまうという「フリーライダー(タダ乗り)」の問題、財源を確保できないのではないかという問題である。

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要約公開日 2018.04.19
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