通販という形態は、アマゾン登場以前から存在し、数多くの通販事業者がいた。しかし、アマゾンは通販の常識を大きく変えたという意味で、特別な存在と見なされている。現在ではネット通販が主流だが、昭和の時代から長い間、カタログ通販やテレビ通販といった形で通販事業は浸透していた。1990年代半ば以降、日本国内に急速にインターネットが普及したことで、日本の通販事業の形態は大きく変化していった。
具体的に変化したのは、無数の商品を取り扱えるようになったという点だ。放送時間や紙面の制限がないため、販売見込み数の少ない「ニッチな商品」も販売可能になった。つまり、「ロングテール」を上手く活用できるようになったというわけだ。また、配達のスピードが劇的に速まったことも、ネットがもたらした変化といえる。
アメリカでアマゾンのサービスがはじまったのは1995年である。創業者のジェフ・ベゾスは、インターネット通販を通じて流通イノベーションを起こせると直感し、ネット通販に巨額の投資をした。そしてアマゾンは実際にさまざまなイノベーションを起こすことで、配達のスピード、決済方法、商品の取り扱い数、検索方法など、それまでの通販の課題を次々に解決していった。
アマゾンといえば、「速く届く」というイメージが当たり前になって久しい。日本においてこのスピードを支えているのは、ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便などの配送業者である。
宅配便を代表する大手三社の中で、圧倒的な強さを誇るのがヤマト運輸だ。現在、アマゾンで注文した商品のほとんどは、ヤマトによって届けられている。ヤマトの強みはサービス力の強さにある。時間指定やクール便などのサービスをいち早く展開し、サービスの品質を保ってきた。
アマゾンの戦略は、取引先の、他社に対して優位性を築こうとする企業努力を利用して、アマゾンにとって有利な取引条件を引き出し、高い品質を担保するというものだ。もちろん、ヤマト、佐川、日本郵便の三社も競争を強いられた。
アマゾンとの取引で発注の優先順位が落ちることは、数百億円の売上が左右されることを意味する。そのため、配送業者は価格やサービスの要求に対応し続けたが、次第に採算が取れず疲弊していくことになる。結果的に佐川はこの競争から降り、ヤマトも配送料の値上げを訴えるようになった。アマゾンはヤマトの値上げを渋々受け入れつつも、小規模な会社と手を結ぶことによって、配送を分散させ始めている。
一般的な小売業、例えば百貨店や服飾品では、リアルな店舗が顧客との接点になる。そして、店舗での接客の質により、顧客満足度は大きく左右される。それに対し、アマゾンのような通販事業の場合、顧客との接点は、ウェブサイトと、商品を顧客の手元に届けるところの2点のみである。接客という手段がとれない状況で、リアルの店舗に匹敵するサービスをどうすれば提供できるのか。
3,400冊以上の要約が楽しめる