カルビーに寄せられるお客様の声は年間3万件以上にのぼる。購入した商品の不具合から新商品開発の要望まで、その内容は実にさまざまだ。だがカルビーはどんなお客様に対しても誠心誠意、丁寧な対応をするようにしている。それがお客様の立場に立つということだと考えているからだ。
カルビーではお客様からの「クレーム」を「ご指摘」、ご指摘に対しておこなう仕事を「処理」ではなく「対応」と呼んでいる。クレームという言葉は「苦情」に近いニュアンスがあり、対決姿勢やケンカ腰であるかのような響きがある。だがカルビーは、どんな内容でもお客様から届いた声は「ご指摘」であり、貴重な意見として「対応する」ということを徹底している。
このような対応をするようになったのには、過去の不祥事の影響がある。カルビーは2000年~2001年と2012年に起きた商品回収で、経済的損失だけでなくお客様の信頼や信用も失った。このときの経験をもとに、企業活動はお客様に支えられていることをあらためて認識。お客様相談室の体制を再構築しはじめた。
カルビーお客様相談室の使命は大きくわけて2つある。ひとつは商品に不具合を感じたお客様への丁寧な対応だ。商品を購入したお客さまの問い合わせや疑問に対し、親切丁寧な回答をするよう心がけている。もうひとつはお客様の声をカルビー社内の関連部署へ伝達することだ。お客様の声に対する「分析→検証→伝達」というサイクルを、相談室が窓口となることで、全社に共有する。
スポーツ競技の戦術に攻守があるように、お客様相談室の戦略にも「攻め」と「守り」がある。お客様に満足いただける対応を「守りの対応」とするならば、関連部署に伝達することは「攻め」の対応にあたる。守りの対応で重要なのは、お客様のご指摘に対して誠心誠意おわびをしたうえで調査し、その結果や再発防止策を回答することである。一方の攻めの対応においては、お客様の声を社内へしっかり伝達することが肝要だ。ここを徹底的にやることで、お客様の期待に応えるアクションが具現化するのである。
年間に寄せられる3万件以上の声のうち、クレームや苦情などは全体の約3割だ。残りの約7割は、カルビーに対する意見や要望である。ある商品に対して「少し酸っぱく感じる」という意見をいただいたので味を微調整したところ、そうしたご指摘はなくなり、「まさか本当に変えてくれるとは思っていませんでした」といった声も寄せられた。また塩分を50%カットした新製品も、お客様の声から生まれたものである。
カルビーに対してご指摘されたお客様の再購入率をアンケート調査したところ、「今までとかわらずカルビーの商品を買う」「いままで以上にカルビーの商品を買う」と答えたお客様が95%以上いるという結果が出た。ご指摘をくださった約8割のお客様が週1回以上、カルビーの商品を購入してくださっていたのだ。
こうした数字は、カルビーのお客様対応に対するひとつの評価だと考えていいだろう。ただしご指摘の多くが、お客様のネガティブな感情からスタートしていることを忘れてはいけない。ご指摘のひとつひとつに対して真摯な対応をし、信頼を得てファンを増やしていく。それが結果として、安定した経営につながっていくのである。
お客様相談室では「お客様の気持ちに寄り添ったコミュニケーション」をめざしている。だから細かい「ご指摘対応マニュアル」は用意されていない。より正確にいえば、マニュアル対応ではお客様の満足は得られないと考えている。
ではどうすれば本当の意味で満足してもらえるのか。
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