2010年1月19日、JALが経営破綻した旨を伝えるニュースは、世間を大きく騒がせた。しかし、その後わずか2年で経営状況は劇的に回復し、再上場を果たした。2012年~2017年まで、5年間の平均営業利益は1800億円台である。業界でも高い水準の成績を維持している。そして今では、様々なサービス評価で1位を獲得するエアラインへと生まれ変わった。
JALの破綻前後で最も変わったもの、それは教育への取り組みの充実である。JALは「世界で一番お客さまに選ばれ、愛される航空会社」を第一の目標としている。その実現のためには、会社にとって「財(たから)」である社員を大切にしないといけない。執行役員で空港本部長を務める阿部孝博氏は、このように語る。
JALに入社を希望する社員の多くは「人と接することが好き」という動機でやってくる。したがって、会社が教育に力を入れて社員のスキルが上がれば、お客さまの満足度も高まる。そして、それが喜びとして社員にも返ってくる。つまり、教育に対する投資はスタッフのモチベーションアップにもつながるというわけだ。
その教育の根幹となるのが「JALフィロソフィ」である。これこそ、JALのサービスを大きく変えたといってよい。
JALフィロソフィは全社員にとっての「行動哲学」である。40項目で構成され、すべてJALのウェブサイトに掲載されている。
JALが破綻した際、再生の頼みの綱であった京セラ創業者の稲盛和夫氏が重視したのは、全社員の意識改革だった。「全員が心を一つにして一体感をもつ」(植木義晴氏/前社長)。これを実現するために、運航、整備、客室、空港、貨物などの各現場からメンバーが抜擢された。さらには、京セラからもアドバイザーを加えて、何度も内容を検討した末に完成したのが、JALフィロソフィである。まさに、現場の人間が作った、現場で働く人々に適した行動哲学だ。
しかし、どれほどよい哲学も、社員に浸透しなければ意味がない。JALのある職場では、「今日のJALフィロソフィ」を40項目の中から選び、仕事上でどのように実行するかを、ほぼ毎日発表しているという。策定から6年後には、グループ社員約3万3000人全員が、年3回JALフィロソフィを学ぶのが慣習となった。
このような徹底した努力があるからこそ、JALフィロソフィは経営の考え方、リーダーの行動、現場でのサービスにまで浸透しているのである。
「エアラインの差はサービス力でつく」。JALの植木義晴氏はこう確信している。低価格で勝負を仕掛ける航空会社も参入し、競争にさらなる拍車がかかる中、サービス力、人間力こそがエアラインの大きな武器となる。
エアラインのサービスにおいて、第一印象を決定づけるのがグランドスタッフだ。グランドスタッフの仕事は、チェックインカウンター、搭乗ゲート、ラウンジの担当、バックオフィスでの情報コントロール、パイロットの補佐など多岐にわたる。
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