著者が「部下」だった1990年代、上司が部下に「仕事なんだから、文句を言わずにやってくれよ」と言えば、なんとか仕事は回っていた。当時は、部下が上司に不平不満を言うことは許されなかったのだ。だから当時の上司は部下の話を聞く必要などなかった。
また当時は、誰もが同じような人生を送っていた。真面目に働いて結婚をして子どもを持ち、出世して家を買って、定年退職して年金をもらう……といったものだ。「定年というゴールに向けて仕事をし続けること」が「当たり前」の時代でもあった。
しかし時代は変わった。終身雇用制度が崩壊し、働く人たちの価値観も多様化しているため、「よい人生」「よい仕事」「ベスト・パフォーマンス」は人によって異なる。うまくマネジメントするためには、どのような価値観を持っているのか、相手の話を聞いて把握しなければならない。
そんな時代にあって、「仕事なんだから、文句を言わずにやってくれ」と言えば、部下が退職してしまったり、あなたがパワハラで訴えられたりするかもしれない。もしそのようなマネジメントをしているなら、すぐに考えを改める必要がある。
例えば、あなたが体調を崩して病院へいったとする。お医者さんに症状を伝えたところ、「軽い風邪ですね。お薬を出しておきましょう」とだけ言われたら、なんと感じるだろう。あなたはきっと、「もっと話を聞いてほしい」と思うのではないだろうか。
もし、お医者さんが「ほかに気になるところは?」などと問いかけてあなたの話を聞いてくれたら、「このお医者さんは診察が丁寧だ」と思うはずだ。実際、ネットで評判のよいお医者さんは「患者の話をよく聞いてくれる医者」であることが多い。
会社の上司も同じである。あなたはかつて、あなたの話に真摯に耳を傾けてくれる上司に好感を抱いたのではないだろうか。部下から好かれ、部下と信頼関係を築きたいと思うなら、「話を聞くこと」は不可欠なのだ。
著者のセミナーの参加者には、「聞くのが怖いんです」と言う職場リーダーが少なからずいる。「聞くことで部下との関係が構築される」と理解しながらも、「あらたまって面談時間を設けるのが怖い部下がいる」というのだ。その部下は、仕事に不満を抱いているのが明らかで、面談をすると「辞めたいんです」「異動させてください」などと言われそうで怖いという。
その気持ちも理解できるが、それは「聞かないこと」で延命措置をしているだけだ。そのまま放置すると、部下は上司への不信感を募らせるだろう。「聞いてもらえないこと」は、致命傷になりかねないのだ。
なぜ面談の時間を設けてまで、部下の話を聞かなければならないのか。その理由は
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