本書のタイトルを見たとき、「自分は弱い」と感じている人は「自分のどこに強さがあるのか」と思い、「自分は強い」と感じている人は「自分は弱くなんかない」と思ったかもしれない。ここで著者が言う「強さ」は、「健康で体力があること」「財力・権力・地位があること」「才能や技術があること」といった、目に見える、わかりやすい強さのことではない。
こうした強さはいつか必ず失われる。この世で生きている以上、健康や体力、財力・権力などとは、必ず別れなければならないときがくる。すべてを失って「弱い」自分になったとき、多くの人は絶望する。ホスピス医として人生の最終段階を迎えた患者さんたちと関わり続けてきた著者によると、死を目前にしたとき、強かった人、多くを成し遂げてきた人の方が大きな苦しみを抱えることが多い。
そうした人たちは、本当に弱くなったわけではない。わかりやすい強さを失っただけだ。「弱くなったときにこそ、その人の本当の強さが現れる」と著者は考える。わかりやすい強さのほかに、弱さの中で見つかる強さ、弱さから生まれる強さもある。大事な人たちとの別れが迫り、自分でできることが限られていることを嘆いていた人の多くは、苦しみを味わう中で少しずつ変わっていく。
ある患者さんは高卒で銀行に入社し、「この世は弱肉強食だ」と、家族を顧みず、ときに非情な仕事ぶりで成績を上げ、大卒の同期よりも早く支店長になった。ところが、50歳すぎで治る見込みがない肺がんが発覚し、緩和ケアを受けることになった。「仕事ができない人間は銀行には入らない」と考えていたのに、仕事どころか日常生活を送るために人の助けが必要となってしまった。最初は周囲に怒りをぶつけていたが、献身的な介護を受けるうちに、
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