独学の思考法

地頭を鍛える「考える技術」
未読
独学の思考法
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地頭を鍛える「考える技術」
未読
独学の思考法
出版社
出版日
2022年03月20日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

「人生は、勉強だから」

この言葉を両親から繰り返し聞いて要約者は育った(あと記憶しているのは「嘘は泥棒の始まり」)。学校で教えてもらう勉強と、図書館で本を手にする勉強を分けることなく、学ぶことを日常に溶け込ませる習慣がついたのは、両親の教育方針の賜物だろう。

赤面ものの親自慢を紹介したのは、両親の言葉と「探究のための独学の力は、人生全体を生きる力」という著者のメッセージとに、強い類似性を見たためである。著者は、「走ること=考えること」「足跡=本を書いた人の思考の痕跡」とたとえつつ、「思考力は長い月日をかけて少しずつ訓練されるもの」という信念を、本書で繰り返し述べている。

「幸せに生きるために、何が必要なのか?」「これからの社会に求められる価値とは?」という問いは、人生・社会一般における根本的な問題であり、1つのシンプルな真理となるような答えは知られていない。しかし、仕事と生活を忙しく過ごす日々の合間に、誰もの頭にふと浮かぶのは、こうした哲学的な大きな問いだ。こうした問いに「答えなんてないから考えても無駄」とそっぽを向くのか、「自分なりに答えを見つけてみよう」と探究の道を歩み始めるのか。

タイトルに「独学」とあるが、先人の足跡である本や他者との対話を通じ、共に考えるための効果的な手引きを著者は伝えてくれている。「考えるとは何か?」を徹底的に考えている哲学者と一緒に、人生をより豊かにするための勉強を始めてみるのはいかがだろうか。

ライター画像
Keisuke Yasuda

著者

山野弘樹(やまの ひろき)
1994年、東京都生まれ。2017年、上智大学文学部史学科卒業。2019年、東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻(比較文学比較文化分野)修士課程修了。現在、同大学院博士課程、および日本学術振興会特別研究員DC1、「東京大学共生のための国際哲学研究センター(UTCP)」リサーチ・アシスタント。専門は哲学(とりわけポール・リクールの思想)。2019年、日本哲学会優秀論文賞受賞。2021年、日仏哲学会若手研究者奨励賞受賞。「哲学の知と実社会を繋ぐ」という理念のもと、哲学の〈意義〉と〈魅力〉を世に幅広く発信することをライフワークとしている。

本書の要点

  • 要点
    1
    答えのない時代に自分の頭で考えるには、長い年月をかけて「問いを立てる力」「分節力」「要約力」「論証力」「物語化する力」を訓練し、「自分の足で走る」思考習慣をもつことが重要だ。
  • 要点
    2
    独学の思考を応用して「対話的思考」を実践することができる。対話は、他者と倫理的な関係を結び、先行きの見えない時代状況で自らの思考の枠組みを更新するためでもある。
  • 要点
    3
    探究のための独学は、みのり豊かな人生を送るために考えるべき根本問題を真正面から扱うことができる「人生全体を生きる力」である。

要約

独学の思考法を身につけるには

自分の足で走る独学

「答えなき時代に自分の力で探究を行うための方法」、すなわち「独学」における「考える技術」を伝えるのが本書の目的だ。

実践的で本質的な独学に取り組むうえで絶大な効力を発揮するのが「哲学」である。哲学は、「常識」のうちに埋もれた「問い」を言語化することで、オリジナルな思考を構築し、独学に真摯に向き合う最良の技法だ。

大学入学当時の著者は、知力を高めるために多くの本を読むことで満足していた。しかし、友人との対話から、「自分の頭で考える」ことがまるでできていないことに気づく。知識を生み出す思考活動から切り離され、本に書かれた内容を疑うことなく肯定する「一問一答式知識観」をもっていたのだ。

ショーペンハウアーの本『読書について』では、読書は「他人の考えた過程を反復的にたどるにすぎない」と、本を読む営みが痛烈に批判されている。

「考えること」は「走ること」だ。他人の残した足跡だけを追いかける思考は、知識に思考が支配された状態といえる。私たちは「自分の足で走る」、つまり「知識」を生み出す「思索」を自ら行わなくてはならない。

そのために必要なのは「問いを立てる力」「分節する力」「要約する力」「論証する力」「物語化する力」の5つのスキルである。

問いを立て、走る準備を整える
Peshkova/gettyimages

思考の出発点となるのは「問いを立てる力」だ。「問い」には、「思考を誘発する力」がある。そうした「導きの糸」となる問いには、「普遍性を探究する問い」「具体性を探究する問い」「前提となる価値観を探究する問い」がある。

「普遍性を探究する問い」はまず、「他のすべての事柄に当てはまるのか?」という形で思考を修正・限定する力を持つ。「他の地域でも同様か」などと適切に自説を限定していくことで、思考の抜け漏れを防ぐことができる。そして、「なぜそう言えるのか?」と根拠の普遍性を問えば、主張と根拠の間に飛躍があるかを点検できる。その上で「そもそも、◯◯とは何か?」と定義の普遍性を問うことで、物事の本質を捉えられる。

抽象的な言葉を理解するために必要なのが「具体性を探究する問い」だ。「どのような事態を想定しているのか?」を聞くことでイメージのすり合わせを行い、「〇〇という言葉は、何を意味するのか?」という問いで単語の意味理解の違いが明らかになる。「何がきっかけで、そう考えるようになったのか?」と根拠となる具体的な経験を問えば、理解のズレの背景を知り、相互理解や共感の余地を獲得できる。

最後の「前提となる価値観を探究する問い」は、感情の波に思考を搦めとられないようにするためのものだ。「なぜ相手の主張に共感できないのか?」あるいは「共感できてしまうのか?」を自問することで、価値観の隔たりや重なりを捉え直す。そして、相手の主張と自分の主張が「共存できるか?」を模索する。

出発点から走り出すための3つのスキル
Kseniia Ivanova/gettyimages

いざ問いを立てたら、実際に走り出すための論理的な思考のスキルが必要だ。「分節力」「要約力」「論証力」はそのための能力である。

ロジックを構成するための重要な部品を整理・収集し(分節力)、そのパーツから無駄のないロジックを構成して(要約力)、調和のとれた1つのアーギュメント(議論)を作っていく(論証力)。

分節力とは、多種多様な情報について、「質や重要性を節目に応じて分けていく力」だ。ここで著者が提案するのは、「教養書を思考のトレーニング場として活用する」方法である。

その際、「同じ性質の情報を一つにまとめ」、「情報の関係性を整理」し、「理解の追いつかない箇所を確定する」ことを意識する。単語を線で囲んだり、主張のポイントに応じて色分けしたり、近い議論の箇所をメモしたりなどして分節化することで、再読した時にすぐ理解し直せるようになる。

続いて要約力とは、分節によって抜き出した重要な骨子から、そこで展開されているロジックを最もコンパクトに再構成する力である。分節化した諸単語について検討し、より簡潔な表現で再構成して、量と質の両面でコンパクトな「文章」の形に並べ替える。

主張の骨子を大胆にあぶり出す以上、そこには抜け漏れ、「要約の穴」も生じる。これを探す習慣をつけることで、より深く文章を解釈できるようになる。この要約と読解の作業の循環は、要約力を高める基本的な方法だ。

そして、他者の意見の要約に、自らの推論で導き出した判断をバランスよく組み合わせてアーギュメントを構築する力が、論証力である。論証の核を組み上げる上で立ち返るべきなのは「問いを立てる力」だ。アーギュメントが求められるのは、社会的に意義のある深刻な問いである。それを引き受けるためには、なかなか解決されないジレンマを見抜き、「この問題の真の難しさはどこにあるのか?」を問わなければならない。

アーギュメントの順序に必然性を持たせるコツは「問いと答えのプロセスで話を繋げていくこと」だ。序論における最大の問題提起に立ち返りながら、議論を組み立てる中で生じる「一連の問いのネットワーク」によって、論理的な文章の「魂」を構成する。

【必読ポイント!】 対話的思考のススメ

伝える、理解するための物語力

5つ目のスキルが「物語化する力」だ。物語化する力とは、「走ったコースの景色を魅力的な再現VTRにまとめるためのスキル」と言える。このステップが非常に重要となるのは、高度な思考も、「それをしっかり人に伝えることができなければほとんど意味がない」からだ。

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要約公開日 2022.06.30
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