大前研一 日本の論点 2018~19

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大前研一 日本の論点 2018~19
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出版社
プレジデント社

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出版日
2017年11月30日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.5
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

本書はプレジデント誌で掲載されたコラム「日本のカラクリ」のうち、反響の大きかった記事を中心に加筆修正してまとめたものだ。2013年に第一弾が上梓されて以来、じつにシリーズ5冊目となる。

読者が本書から学ぶべき視点は、書き下ろしの巻頭言に明示されている。ここ最近、世界ではポピュリズムが台頭し、右傾化・独裁化の傾向が強くなっていた。だがいまは揺り戻しが来ていると著者はいう。イギリスは国民投票でブレグジット(EU離脱)を選んだものの、後になって離脱によるデメリットの大きさに直面。EU各国でもブレグジットで揺らいだ結束を強化する動きが生まれている。

社会の分断に対する反動が起こっているのだ。安倍一強体制が続いてきた日本でも、同様の動きがやってくると著者は見ている。だが巻頭言を読むかぎり、政治家に多くを期待するのは難しそうだ。著者は見込みのありそうな与野党の政治家に声をかけ、1年間の勉強会をおこなったとのことだが、大きな国家のビジョンを掲げる政治家はついぞ現れなかったという。

幸か不幸かいまの日本は、緊急で取り組むべき課題をあまり抱えていない。極端にいえば、政治家というドライバーがいなくても動く「自動運転車」のようなものというのが著者の見解だ。だからこそ国民一人ひとりが日本を、そして世界を見すえる必要がある。「自分の人生に対し自らハンドルを握る」ためのヒントが満載の一冊だ。

ライター画像
小島和子

著者

大前 研一 (おおまえ けんいち)
早稲田大学卒業後、東京工業大学で修士号を、マサチューセッツ工科大学(MIT)で博士号を取得。マッキンゼー・アンド・カンパニー・インクを経て、現在(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役、ビジネス・ブレークスルー大学学長、ボンド大学経営学部教授。著書に『稼ぐ力』(小学館)、『新装版企業参謀』(プレジデント社)、『低欲望社会「大志なき時代」の新国富論』(小学館)ほか多数。

「ボーダレス経済学と地域国家論」提唱者。マッキンゼー時代にはウォールストリート・ジャーナル紙のコントリビューティング・エディターとして、また、ハーバード・ビジネスレビュー誌では経済のボーダレス化に伴う企業の国際化の問題、都市の発展を中心として拡がっていく新しい地域国家論の概念などについて継続的に論文を発表していた。
この功績により1987年にイタリア大統領よりピオマンズ賞を、1995年にはアメリカのノートルダム大学で名誉法学博士号を授与された。
英国エコノミスト誌は、現代世界の思想的リーダーとしてアメリカにはピーター・ドラッカー(故人)やトム・ピータースが、アジアには大前研一がいるが、ヨーロッパ大陸にはそれに匹敵するグールー(思想的指導者)がいない、と書いた。
同誌の1993年グールー特集では世界のグールー17人の一人に、また1994年の特集では5人の中の一人として選ばれている。2005年の「Thinkers50」でも、アジア人として唯一、トップに名を連ねている。

本書の要点

  • 要点
    1
    宅配業界における課題を解決するには、「ラストワンマイル」の一元化が必要だ。
  • 要点
    2
    再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度は破綻が見えている。これを収拾するには、特別なインセンティブによる普及はあきらめ、競争原理に立ち返るしかない。
  • 要点
    3
    世界中に広がる「キャッシュレス社会」は消費者ばかりか、企業や国家にとってもメリットが大きい。
  • 要点
    4
    トランプ大統領の排外的な経済政策は、新たな貿易摩擦の火種となる。個別交渉が増えていけば、日本にとっても深刻な影響が出るだろう。

要約

【必読ポイント!】 日本の宅配のこれまでとこれから

アマゾンが支配する日本の宅配事情
cybrain/iStock/Thinkstock

宅配便業者の負荷が限界に近づいている。配達員やドライバーの労働環境の劣悪さは深刻で、人手不足によるサービス残業が業界全体で常体化している。

ヤマト運輸も約7万6000人分の未払い残業代の調査に乗りだした。同社は配達時間の変更や再配達の締め切り時刻繰り上げ、27年ぶりとなる基本運賃の値上げなどで、労働環境の改善を図っている。

国土交通省によれば、宅配便の取扱個数(トラック輸送分)は6年連続で過去最高を更新している。その背景にあるのがネット通販の急増だ。なかでもアマゾンの日本事業はずば抜けており、その荷物をほぼ一手に引き受けてきたのがヤマト運輸である。

当日配達や日時指定など、利用者にとって非常に便利な配送サービスがアマゾンの強みだ。しかしこの利便性が、宅配便業者の大きな負担となってのしかかっている。

宅配現場を救うラストワンマイルの「一元化」

ヤマト運輸は「現場の業務を圧迫する」として、アマゾンジャパンなど大口法人顧客との契約内容を見直している。だが仮にそれがうまくいったとしても、宅配源の負担軽減の決定打とはならないだろう。取り扱い総量が増えているうえ、最寄りの配送センターから個人宅に届ける最終行程、いわゆる「ラストワンマイル」に課題があるためだ。

宅配便の約2割は、受取人が不在のために再配達されている。国土交通省の試算によると、再配達に費やされる走行距離は全体の25%に及び、必要な労働力は年間9万人(約1.8億時間)にも相当する。国交省に「社会的損失」といわしめるほど厳しい現実である。喫緊の課題はラストワンマイルのコスト削減なのだ。

著者は20年以上前からひとつの解決策を示してきた。それがラストワンマイルの一元化である。宅配便業者がそれぞれに届けるのではなく、地域ごとに配達公社や協同組合を組織して、一手に配達を担ってもらえばいい。スマホで在宅時間を確認するなど、こまめな対応をすれば、再配達のロスも減らせるはずだ。

宅配業界の変革が求められるいま、ヤマト運輸のような業界大手が主導することで、こうした一元化を実現してもらいたい。

再生可能エネルギー固定価格買い取り制度の破綻

最終的な負担は消費者へ
Pogonici/iStock/Thinkstock

風力、太陽光、水力、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギー源を用いて発電された電気を、国が定めた価格で10~20年という一定期間、電力会社が買い取ることを義務づけた制度がある。それが2012年に始まった「固定価格買い取り制度(FIT)」だ。

FITは2011年の福島原発事故の後、再生可能エネルギーの普及促進策として導入された。買い取り価格は電源ごとに異なる。なかでも破格に高かったのが太陽光発電(10キロワット以上の産業用)の1キロワットアワー当たり40円だ。そのため太陽光発電の設備申請が殺到。約2年で総発電量は約7000万キロワットにまで急増し、再生可能エネルギーの9割以上を太陽光発電が占めるまでになった。

買い取り価格は1年ごとに見直され、徐々に下がっていく仕組みだ。参入インセンティブを高めるため、40円という高額に設定されていた太陽光発電の価格は、2016年には24円になっている。とはいえいまから新規参入しても採算は合う計算だ。

こうした買い取りコストは、電気料金に上乗せされている。高額な買い取り価格を最終的に負担しているのは消費者だ。

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要約公開日 2018.04.26
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