本書は企業参謀としての戦略的思考を核に、今でも経営企画やコンサルティングの現場で頻繁に使われているフレームワークの活用法、それらを企業戦略策定に活かす方法や心構えなどが幅広く扱われた書である。
まず戦略的思考法とはどのような思考法か。パッケージツアーや理髪店に対する興味深い思考を取り上げたい。これは経営コンサルタントでなくとも優秀なビジネスパーソンであれば、日常で行っていることではなかろうか。
ある旅行案内の話。週末に風光明媚なところでスポーツを楽しもうという企画である。ゴルフ、テニス、アーチェリー、サイクリング、ヨット、のどれでも伊勢志摩国立公園という素晴らしい環境の中で楽しむことができるというものだ。
土曜の朝9時にバスで出発し、夕方6時に到着、翌朝にスポーツをして、午後2時半にバスで出発、夜9時半に東京に到着するという計画だ。
分解すれば旅行代1万7000円の内、食事代を引いた1万5000円でスポーツを最大5時間するということだ。スポーツのことだけを考えれば、都心で高価なテニスコートを借りてしまった方がよほど安いということに気付く。大自然の中でテニスをというような「何となく」で他律的にお金を払うのではなく、突き詰めて考え自律的判断をするべきである。
同じように理髪店の料金、1400円(原著出版時の1975年の相場)で約50分の作業のうち、髪を切りそろえる時間は10分強、残りの時間の多くは家に帰ってシャワーを浴びてしまえば何もなくなるものに費やされている。一方で当時の米国では洗髪等は一切なく、(現代の1000円カットのように)髪を切った後は、真空掃除機で吸い取り終わり。正に合理的である。本当にその他作業のリフレッシュにお金を払いたいのか、忙しいから早く済ませたいのか。そう考えればどちらが得であるのか、判断しやすいだろう。
このように勘や感覚のみに頼るのではなく、冷徹な分析と人間の経験や勘、思考力を、最も有効に組み合わせた思考形態こそ、戦略的思考と呼べるものではなかろうか。
問題点がどのように識別されるかによって、問題解決策が優れたものになるかを分ける。問題点識別において重要なことは、「問題点の絞り方を現象追随的に行うこと」にある。
まず現象の抽出は、ブレーン・ストーミング(洗い出しのディスカッション)でも何でも良い。新鋭の他社と比べて劣っている点を集め、共通項に整理、グループで見たときに共通した問題点を見出すのである。
このプロセスを戦略コンサルタントでは、抽象化のプロセスと呼ぶ。よく企業内の業務改善計画を見ると、この抽象化のプロセスを行っていないため、短絡的な答えになりがちだ。
「問題」=事業部人事交流の欠如
「対策」=事業部人事の流出入を容易にし、人事交流を図る
といった具合である。
問題の抽象化が行えれば、問題解決のアプローチは既成の問題解決事例がかなり使えるため、ほぼ答えが出たようなものだ。
どうしたらこうした本質に早くたどり着けるのだろうか。物の本質を本能的にかぎわける天才ではない人々のための方法論を紹介する。
①イッシュ―・ツリー
大きな問題点を提示し、これを相互に重複することのない2つ以上のサブ・イッシュ―への分解を繰り返す方法である。初めは問題が大きく手が付けられないものだが、だんだんと対処可能な問題に分岐する。
3,400冊以上の要約が楽しめる