アップルのCEOを長く務め、圧倒的な存在感を示し、亡くなったスティーブ・ジョブズは、この先どのくらいアップルの企業文化に影響を与え続けるのだろう。ジョブズの死後、この話題があいかわらずメディアをにぎわしている。
「僕の一部は会社のDNAに組みこまれているけど、単細胞生物はあまりおもしろくない。アップルは複雑な多細胞生物だ。」ジョブズは亡くなる数カ月前にそう語った。ジョブズが後年、組織に浸透させようとした企業文化は、まさに彼の不在によって強度を試されることになる。何年も先の話になるだろうが、世界はいずれ、スティーブ・ジョブズその人がアップルだったのか、それとも彼がみずからの死後も生き残るたくましい複合生物を作り上げていたのかを知ることになる。
アップルでは秘密にふたつの形態がある――対外的なものと、対内的なものだ。対外的なもの、つまり会社として製品や業務を競合他社などほかの世界から隠しておくのは当然である。一方で、対内的な秘密は受け入れるのがむずかしい。
アップルでは突如、自社ビルのなかに新しい壁が作られ、ドアがつき、新しいセキュリティ規則が示される。内容を知らされていない社員は、何か極秘の新しいプロジェクトが始まり、自分はその内容をしらないということだけしか想像がつかない。アップルの本社、通称「インフィニット・ループ」で販売されているTシャツにはこのような言葉が入っている「私はアップルのキャンパスを訪問した。でもそれだけしか言えない」と。
アップルが秘密とセキュリティを重視する理由の一つは、ある製品を発売する際に、直前まで秘密のベールに包まれていれば、とてつもなく価値の高い報道や取材や評判が生まれるからだ。アップルの製品発売はハリウッドの超大作映画の公開のようなもので、それまでに詳細を発表してしまうと、期待に水を差すことになる。
もうひとつの理由は、すでにある製品への興味を失わせないためだ。次に何が出るか、消費者が正確に知ってしまったら、どうせ次世代製品に代わるのだからと、いまの製品を買い控えるかもしれない。たとえば、アップルの報告によると、2011年夏のiPhoneの新機種に対する期待で、既存のiPhone4の売上が落ちた。
もしアップルの秘密を外にもらしたらどんな罰則が待っているのか。当然、即時解雇である。
アップルの細部へのこだわりが端的に表れるのはデザインだ。アップルの製品は、限られた社員しか入れない厳重に管理された部屋、工業デザインスタジオで生まれる。その責任者はデザイナーのジョナサン・アイブ。ジョブズを除くアップル幹部のなかで、もっとも有名な人物だ。
アップルのデザイン哲学の鍵は、「デザインが製品の出発点」ということだ。
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