技術の発達により、ハードの性能はあらゆる分野ですでに極まっている。技術的にこれ以上の進化をしたとしても、そこまで高性能なものは求められないだろう。すると「それほど高性能でなくてもいいから、安いものが欲しい」という人が増え、価格競争になる。だが新興国に安さで勝つことはできない。日本がかつて得意としていた「ハードでの勝負」では勝ち目がないのである。
これからの日本はソフトで勝負するべきだ。資源も土地も労働人口もない日本が世界で戦っていけるとすればコンテンツ産業、なかでもアニメしかない。いまやアニメは世界中で認知されるコンテンツである。アニメ業界は、日本を強くする可能性を秘めているといえる。
いまのところ日本のコンテンツ産業は輸出が少ない。日本のアニメはレベルが高く、世界中でニーズがあるにもかかわらず、輸出が下手なためビジネスとしてはまだ発展途上のままだ。
また日本のアニメ業界の問題として、実際にアニメを作っているアニメーターの報酬が低いことが挙げられる。アニメ産業の売り上げには、DVD・BDやグッズの販売も含まれるのだが、これらの売り上げはアニメスタジオに入らないことがほとんどだ。そのため現場スタッフの経済状況は非常に苦しいのが現状である。
アメリカなどの諸外国では、才能ある人間には正当な報酬が支払われている。日本のアニメ業界も構造を変えていかなければ、人材の流出や産業の先細りを招く。今後の日本を引っ張っていける可能性のある産業が、それではいけない。
プロデューサーのもっとも重要な仕事は、クリエイターに多くの報酬を払い、より制作に集中できる環境を作ることだ。日本のアニメの構造を変え、アニメビジネスを変革することができるのは、アニメプロデューサーだけなのである。
日本のアニメの多くは、製作委員会方式を取っている。これは複数の会社が資金を出し合ってアニメを作る仕組みだ。
じつは製作委員会方式の場合、赤字が前提となっており、本当に黒字なのは上位数本だけである。そもそもが「何本かに1本大当たりすればよい」というビジネスモデルでスタートしているのだ。もちろんコンテンツ産業には博打的要素がつきものだが、とくにアニメは予算回収の難易度が高い。
もともと製作委員会方式は、リスク回避のために作られたという経緯がある。アニメや映画は、制作費が高いわりに利益が保証されない。ひとつの会社が単独で制作費を出す場合、作品が失敗に終わると会社の存続に関わる。製作委員会方式は、出資者を複数募ることでリスクを分散させているのだ。
製作委員会方式の場合、企業は多数の作品に少額出資することが多い。そのほうがリスクを減らせるからだ。すると投資一口の金額を増やすのではなく、投資の頭数を増やす方向へ動くようになる。その結果、アニメの本数はどんどん増え、供給過多でファンが分散し、大ヒットが生まれにくくなってしまう。
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