多くの国はこれまで、市場経済と民主主義の実践により、何事もトップダウンで決まる中央集権型社会よりも多くの成果をあげてきた。だが近年は、人とコンピューターのつながるネットワークにより、変化のスピードが速くなる一方だ。数百万の人々が、お互いの意見から学んだり、影響を与えたりする「つながりすぎた社会」となったのである。そのため、私たちの社会は制御不能になる一歩手前まで来ており、対処方法を模索しなければならない。
この問題解決のカギを握るのが、社会物理学である。社会物理学とは、情報やアイデアの流れと人々の行動の間にある、数理的関係性を記述する、定量的な社会科学である。
この分野の性格について、著者は、自然科学の代表といえる物理学や、社会科学の代表といえる経済学との比較によって説明している。物理学は「エネルギーの流れがどのように運動の変化をもたらすか」の理解をもたらす。同様に、社会物理学は「アイデアや情報の流れがどのように行動の変化をもたらすか」の理解に役立つ。
また、経済学はいかに市場が通貨の交換によって機能するかを研究する。一方、社会物理学はいかに人間の行動がアイデアの交換によって促されるかを研究対象とする。
社会物理学を動かすエンジンとなるのが、ビッグデータである。これまでの社会科学では、実験室の中で起きた現象を分析するか、アンケートに頼ることがほとんどだった。
しかし、ビッグデータを解析する技術の登場により、個人の間で生まれる膨大な量の交流を分析し、社会を複雑な姿のままで捉えられる可能性が生まれた。社会がどのように発展するのかを把握する、世界初の「ソシオスコープ(社会鏡)」が手に入りつつあるのだ。社会物理学は社会システムの改善の扉を開くといえる。
新しい行動は、「新しいアイデアを収集する探求行為」と、「その後に起きる仲間とのエンゲージメント」によって広まる。ここでの探求とは、アイデアや情報を収集するためにソーシャルネットワークを活用することを指す。探求の質を高めるうえで重要な点は次の3つだ。
・社会的学習:成功した他人を真似するという社会的学習を、個人学習と組み合わせた場合に、劇的に優れた効果がもたらされる。数学モデルでの検証によると、最善の学習戦略は、エネルギーの90%を、うまく行動していると思われる人の発見、模倣に割くことだった。
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