新しい時代のお金の教科書

未読
新しい時代のお金の教科書
新しい時代のお金の教科書
未読
新しい時代のお金の教科書
出版社
出版日
2017年12月10日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
4.0
要約全文を読むには
会員登録・ログインが必要です
本の購入はこちら
書籍情報を見る
本の購入はこちら
おすすめポイント

本書は、ビットコインなどの新しい通貨の解説を主としたものでもなければ、人生のマネー・プランの話でもない。お金(貨幣)の本質、そしてお金が私たちにもたらすメリットとデメリット、今後の経済システムの未来を考察した、一篇の哲学書ともいうべきものである。

人間とは「分業」と「取引」によって栄えることを選択した種だという。そうした種にとって、匿名で価値をやりとりするお金は、最大の発明であった。一方で、お金は、交換において生じるはずの人間同士のつながりと、財が本来もっており引き継がれるべき物語(歴史)を分断するというネガティブな側面を持っている。20世紀は、ある意味で、そうしたお金のもつネガティブな側面が行き過ぎた時代といえよう。今後のお金のあり方について、著者は、「信用主義経済」の時代が到来すると予言する。

しかし、そこに至るまで、私たちは「21世紀の生き方の方程式」というべきものをマスターしなければいけない。それは、健康を前提とした時間資源を、ネットワーク・知識・信用の形成へと振り分け、「コト(つながり・物語)」を中心とした財を形成し、創造(貢献)へとつなげることである。

世間には、お金を巡るいろいろな言説があふれている。しかし、「人間にとってお金とは何か」という問いから出発したものはどれだけあるだろうか。私たちが囚われている先入観から自由になる体験を、この本はもたらしてくれるはずだ。

ライター画像
しいたに

著者

山口 揚平(やまぐち ようへい)
事業家・思想家。早稲田大学政治経済学部卒、東京大学大学院卒業。専門は貨幣論、情報化社会論。1990年代より、ダイエーやカネボウなどの大型M&A(企業買収)に関わる。30歳で独立し、宇宙開発から劇場経営まで複数の事業を運営するかたわら、執筆、講演活動を行っている。NHK「ニッポンのジレンマ」に論客として出演。慶應義塾高校非常勤講師、横浜市立大学、福井県立大学などで講師をつとめる。著書に『デューデリジェンスのプロが教える 企業分析力養成講座』(日本実業出版社)、『そろそろ会社辞めようかなと思っている人に、一人でも食べていける知識をシェアしようじゃないか』(アスキー・メディアワークス)、『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』(ダイヤモンド社)、『10年後世界が壊れても、君が生き残るために今、身につけるべきこと』(SBクリエイティブ)などがある。好きな食べ物はコーン。

本書の要点

  • 要点
    1
    お金の本質は、発行している母体の「信用」と、使っている人の数で表せる「汎用」のかけ合わせだと定義できる。
  • 要点
    2
    お金を巡る本質的な社会の変化が起きている。信用の母体が国家から個人に移り、階層的な社会からネットワーク社会に移行している。また、人々の欲求の対象が、モノからつながりといった社会的な価値にシフトしている。
  • 要点
    3
    21世紀のビジネスは、「多様化・個別化・肯定化」へと向かっていく。

要約

お金の起源と定義

貨幣の起源は記帳だった?

私たちが教わってきた貨幣の歴史。それは、そもそも物々交換があり、その不便さを解消するために貨幣が生まれたというものであった。しかし、最近では、その起源は互いの貸借の記帳(記録)にあったという説が有力である。

この説を象徴するのが、ミクロネシアのヤップ島という、小さな島に残る巨大なフェイという石だ。島の住民は、互いにもらったもの、あげたものの記録をこの石に刻んでいった。現物の価値ある資産がなくても互いを信用し、記録する。こうした記帳が貨幣の起源だという。

さらに面白い動きがある。それはフェイの記帳の仕組みが、今、世界規模に広がっているということだ。それがビットコインをはじめとした仮想通貨であり、そのベースとなっているブロックチェーンである。

貨幣はどのようにして貨幣になったのか?

では、記帳はどのようにして現在のような貨幣に変わっていったのだろうか。これには二つの道筋がある。一つは、庶民の生活のなかで、より汎用性の高い、つまり多くの人が価値を認めるものが自然にお金になったというボトムアップの道筋だ。木屑よりも木、木よりも森のほうが高次で、その頂点が金(ゴールド)ということになる。

もう一つの道筋は、商人が王様の権威を借りて、より広い範囲で流通する貨幣を発行するようになったというトップダウンの道筋だ。これは現在の中央銀行の始まりである。いまだ国の権威が各国の通貨を支えていることに変わりはない。

そもそもお金とはどう定義できるのか。著者はそれを譲渡可能な信用、あるいは外部化された信用と定義する。そして、信用を裏付ける者を「信用の母体」と呼ぶ。現在ではそれが国家ということになる。

貨幣は人間にとってもっとも重要な発明だった
Stas_V/iStock/Thinkstock

著者によれば、人間とは「分業と取引によって栄え、『違い』と『社会』によって補完しあうことを選択した種」だという。そのような種にとって、自分と違う人を信用し、取引することを可能にした信用取引(お金)という仕組みは、最高の発明だったのである。お金は互いの個性を発揮し、分業してゆくための最適なメディア(交換媒体)ということになる。

お金の正体を知る

通貨の価値を決めるのは信用と汎用

お金(通貨)の価値は、使っている人の数×発行している母体の信用、すなわち「汎用」×「信用」と定義できる。それでは信用とは何か。

もっと見る
この続きを見るには...
残り2724/3707文字

3,400冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2018.06.05
Copyright © 2024 Flier Inc. All rights reserved.
一緒に読まれている要約
新・日本の階級社会
新・日本の階級社会
橋本健二
未読
科学が教える、子育て成功への道
科学が教える、子育て成功への道
キャシー・ハーシュ=パセックロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ今井むつみ(訳)市川力(訳)
未読
プライベートバンカー
プライベートバンカー
杉山智一
未読
ソーシャル物理学
ソーシャル物理学
アレックス・ペントランド小林啓倫(訳)
未読
MONEY
MONEY
山形浩生(訳)チャールズ・ウィーラン守岡桜(訳)
未読
会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。
会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。
青野慶久
未読
業界メガ再編で変わる10年後の日本
業界メガ再編で変わる10年後の日本
渡部恒郎
未読
全米は、泣かない。
全米は、泣かない。
五明拓弥
未読