イノベーションという言葉は、「既存事業」と「新規事業」の2つの文脈で使われていることが多い。本書で扱うイノベーションを後者の新規事業に限定する。その理由は、両者を一括りにすると新規事業の「将来への芽」を潰す公算が大きいからだという。
特に弊害が大きいのが事業の「評価」である。既に評価方法ができあがっている「既存事業の基準」を新規事業に当てはめるとどうか。時間軸が合わない、よく理解できない、なかなか儲からないといった、さまざまな理由で梯子を外されてしまうことが多い。
もちろん既存事業のイノベーションも重要である。しかし、それだけでは従来勝ち組であった企業でさえも生き残りが難しくなってきている。グローバリゼーションや情報化の進展により、市場環境はめまぐるしく変化している。新興国のキャッチアップも早い。業界の3番手、4番手に安住するという戦略も難しくなってきた。こうした状況下では、新規事業という「将来」に投資をするしかない。
新規事業というのは、自社が知らない市場への、あるいは自社の技術だけではリーチできない領域への進出である。よって、社内の資源だけを使う「自前主義」では実現は難しい。思い切ってオープンイノベーションに舵を切るべきだ。
こういう話に対して「イノベーションは自前主義でも実現できる。オープンにすればいいというわけではない」という反論も聞こえてくる。こうした発言の背景には、組織をオープンにすることに対するいくつかの抵抗要因がある。抵抗要因をとり除くためには、よく練りこまれた「プロセス管理」が欠かせない。
著者は新規事業を念頭に、オープンイノベーションを実現するための5つのステップを提唱する。
(1)組織をオープンにする
(2)知のダイバーシティを推進する
(3)あえてダブルスタンダードで進む
(4)プラットフォームを進化させる
(5)事業出口を柔軟に探す
これを示す実例としては、トヨタ自動車の創業ストーリーが挙げられる。その概略を簡潔に紹介する。前提となるのは、創業者の豊田喜一郎が「日本初の国産車」を開発するという、当時の常識からみれば無謀ともいえるビジョンを掲げていたことだ。しかし当初の製品開発は失敗続きで、自前主義の限界を知ることになる。その後トヨタは、次のような方針へと舵を切った。
(1)組織をオープンにする:喜一郎は組織の扉を開き、日本ゼネラルモーターズなど社外から経験者をスカウトした。
(2)知のダイバーシティを推進する:社内に研究所を作り、帝國大学や東京工業大学から自動車工学、熱工学、材料工学などの専門家を招いた。現在の産学連携の走りといえる。
(3)あえてダブルスタンダードで進む:当初は、喜一郎の父である豊田佐吉が設立した豊田自動織機製作所に、自動車部を作って開発を進めていた。ただ、本業は紡績業であり、自動車という「異分子」を置くと組織が混乱する。そこでトヨタ自動車工業という「自動車ベンチャー」を作り、紡績業から切り離すこととなった。
(4)プラットフォームを進化させる:部品会社と個別に1対1の関係を作るだけでなく、部品会社同士も協力できる「場」を設けた。部品点数の多い自動車は裾野の広い産業であるが、この場は今日でいうプラットフォームの走りでもあった。
3,400冊以上の要約が楽しめる