日本における国益についての議論には、相反する2つの主張があった。ひとつは、国益を戦前の強硬外交を想起させる排他的で危険な概念と捉え、国益ではなく国際協調を重視すべきという主張である。もうひとつは、譲歩や国際協調を弱腰や追随と批判し、国益を優先させるべきという主張である。
しかし日本が取るべきアプローチは、国益と国際協調を二者択一に捉えるのではなく、国際協調によって国益を追求することだ。著者はこれを「開かれた国益」と呼ぶ。これが本書を貫く、核となるコンセプトである。
開かれた国益のために重要なのが、自国に国益があるように、他国にも国益があるという認識である。2国間・多国間で共有できる「国際益」から、グローバル化する世界全体の利益(「世界益」とも「地球益」とも呼べる)まで、その実現のために汗を流し、イニシアチブを取る「積極的国際協調」外交を推進することが、日本の国益を守ることにつながるだろう。
国益をめぐる対立や紛争をどう解決するのか。軍事力や経済力といったパワー(権力)を重視するリアリズム(現実主義)と、法や道義を重視するリベラリズム(理想主義)は、長年ずっと対立してきた。
しかし現実問題として、国際社会では「パワーの優越」が見られる。これまでも小国は大国のパワーに対して道義で抵抗してきたが、最終的には強大な力の前に屈することになった。国際法という道義についても、大国はしばしば自国の国益に照らして、履行したりしなかったりしてきたという背景がある。
とはいえ道義を無視して、国際政治を語ることができないのもまた事実だ。そもそも「自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配」といったリベラルな価値観を掲げ、長年にわたって国際社会をリードしてきたのが、ほかならぬアメリカであった。とりわけ「自由」はアメリカ建国以来の理念であり、「灯台」となって世界を照らしてきたという経緯がある。
2013年の「国家安全保障戦略」によって、戦後はじめて日本の国益が明確に規定された。そこでは「国家・国民の安全」「国家の繁栄」「普遍的価値観に基づく国際秩序の擁護」の3つが挙げられた。
国益において大前提となるのが、「国家・国民の安全」だ。しかしこれだけでは不十分である。平和が確保されることを前提に、国民は物質的豊かさや精神的快適さを求める――この「繁栄」が、平和に次ぐ重要な国益となる。
これに加えて「自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値やルールにもとづく国際秩序を維持・擁護すること」も、日本の国益として規定されている。
すなわち日本の国益とは、「安全」「繁栄」「リベラル秩序」という3つのキーワードにまとめられる。
日本国土を射程に入れる北朝鮮の核ミサイルが、日本の「国家・国民の安全」における最大の脅威であることはいうまでもない。
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