フィンテックとは、ファイナンス(金融)とテクノロジー(技術)を組み合わせた造語である。この言葉は、2008年のリーマンショック後に米国で生まれたとされている。「ITを駆使して既存の金融機関のサービスを一掃してしまうような金融商品やサービス」という意味で使われる。その担い手はリーマンショック時に銀行をリストラされた者が多い。また普及を後押ししたのも、公的資金で救済された大手銀行に反感を持つ人々だ。
こうした経緯から、フィンテック企業が伝統的な銀行業務を「破壊」するという脅威が高まっていた。JPモルガン・チェース銀行のCEOは、この状況をズバリ「シリコンバレーがやってくる」と表現した。しかし現在、大手銀行とフィンテック企業は互いにサービスを高めあう「競合」の時期を経て、「協調」に向かおうとしている。
一方、日本ではフィンテック企業が銀行に敵対せず、フィンテックの普及で米国に遅れを取っていた。これには、金融事業者を縦割りで厳しく規制する金融法制の影響もあった。しかし相次ぐ規制緩和により、この状況は大きく変わろうとしている。
日本の銀行業務を監督する金融庁は、フィンテックの勃興に対し、異例の速さで規制の見直しを始めた。米国ではフィンテック企業と銀行との関係は「破壊→競争→協調」という経緯をたどっていた。これに対し、金融庁は「協調→競争」という変化を狙っているように考えられる。
ポイントは「5%ルールの緩和」と「業態別の法体系の見直し」だ。「5%ルール」とは、銀行とその子会社が合算して一般企業の株式を、議決権の5%を越えて保有することを禁じたルールである。現在は緩和され、銀行が子会社保有分も含め5%を越えて、フィンテック企業の株式を保有できるようになった。
また「業態別の法体系の見直し」とは、普通銀行、信託銀行、信用金庫などの業態別にルールを定める現状から、預金、貸出、決済といった業務別にルールを定める形へと、法体系を変えていこうという動きを指す。
しかし、従来の銀行が積極的にフィンテック企業を取り込み、展開するには課題も多い。まず、決済や送金などの手数料による収入が大幅に減少するだろう。さらには顧客接点と取引履歴などのビッグデータが、すべてフィンテック企業に握られてしまうことで、銀行は重厚長大なインフラ、いわば「土管」を運営するだけの役割となってしまうおそれもある。メガバンクにとってフィンテックの導入は、「やりたくないけど、やらざるをえない」というのが本音だろう。
日本ではスマートフォンなどの携帯型端末によるモバイル決済が普及しているとはいいがたい。その理由のひとつとして、セキュリティ面の不安が挙げられる。
一方、中国では、アリババグループが行う、QRコードを活用したモバイル決済「アリペイ」の利用者が5億人を越えている。アリペイは公共料金の支払いや祝儀に利用されるなど、急速に普及している。その背景には、中国政府がビザやマスターといった海外の大手カード会社の活動を制限していること、クレジットカードの信頼性が低かったことがある。銀行サービスが充実していなかったことも遠因といえよう。
しかしアリペイは、中央銀行が関与しない決済・送金サービスであるため、マネーロンダリングや送金詐欺に使われるという問題も起きている。そこで各国は、アリペイのようなサービスを国内で認めるかどうか、頭を悩ませているのが現状だ。本書の発刊時点では、日本や米国はアリペイの国内進出を拒否している。これは、国内の金融機関が海外の事業者によって「土管化」され、購買履歴などのビッグデータを握られることへの懸念によると考えられる。
日本は諸外国と比較して現金志向が強い。その傾向は強まる一方だ。過去10年、他の先進国の現金流通額にそれほど増減がない中、日本だけが1割近く増加している。しかも、国内で流通する現金のうち、9割以上が1万円札だ。つまり日本では、現金が日常の買い物よりも「タンス預金」に使われているという姿が浮かび上がってくる。
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