いま田舎暮らしに注目が集まっている。地方で自給自足をすれば悠々自適に生活できるし、自然の中でのんびりできる――そんな幻想を抱いている方も多いのではないだろうか。
しかし田舎暮らしはそんなに甘くない。まず立ちはだかるのが、田舎ならではの人間関係だ。移住者の行動や言動は逐一監視され、そうした情報はインターネットを凌駕するほどの速さで集落内に共有される。人情味あふれる親切も、ときとして負担になってくる。その土地の自然を見る前に、その土地の人間との相性を見なければならない。
田舎暮らしは都会暮らしよりカネがかかるという事実にも注目すべきだ。その大きな要因が社会保険である。著者が人口1000人ほどの集落に住民票を移した途端、健康保険料は東京都内の実に5倍にもなった。人口が少なく高齢者が多い市区町村だと、社会保険料は高額にならざるをえないのだ。実際に自治体や田舎の住民が都会からの移住者を受け入れるのも、社会保険の財源として期待している側面もあるという。
それ以外にも、灯油やガソリンを村長の身内が経営するスタンドで割高に購入させられたり、お礼の心づけは倍返しが当たり前だったりと、田舎ならではの人間関係を維持するためにはなにかとカネがかかる。インターネット料金も速度が遅いわりに都会より高い。
田舎で自給自足をすれば都会より安く、豊かに生活していけるというのは、大いなる誤解なのである。
田舎では奉仕活動が強要されるという点も留意すべきだ。たとえば海辺の集落では、毎年夏になると海の家の運営に駆り出されるし、山の集落では野菜や山菜の露店販売に間伐作業など、重労働も珍しくない。その他にも町内会に消防団と、収入のない奉仕活動は数多い。
このように現実の田舎暮らしは一般的な理想とはほど遠く、しかも実際に移住したとしても定住は難しいのが現状だ。しかしここ最近、変化の兆しも出てきている。移住しても定住できない第一形態から、住民票は都会におき地域住民との接触を極力避ける「別荘型」の第二形態、さらには都会と地方を往来していいとこ取りをする第三形態へと、トレンドは移ってきている。田舎暮らしの選択肢は広がってきたといえそうだ。
田舎の魅力は、なんといっても海や山などの自然にある。しかしそうした魅力をちりばめた観光パンフレットをそのまま鵜呑みにしてはいけない。地域密着でもなんでもない都市部の業者がつくるパンフレットに、その土地の実態はなにも反映されていない。
それではどんなものを参考にすればよいのか。おすすめは高速道路のサービスエリアに置いてある高速道路のマップだ。高速道路のマップを眺めれば、移住しようとしている土地が山間部のどん詰まりの場所なのか、あるいは旧街道沿いで往来のきちんとある土地なのかどうかがわかる。人間性は地勢によって醸成されるものだ。
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