2011年3月、著者は『ユニクロ帝国の光と影』を出版した。この内容についてユニクロは、連載を掲載した週刊文春を提訴した。ユニクロの国内店舗と中国の委託工場での労働環境の描写が、ユニクロの名誉を毀損しているという主張だった。裁判では、元店長と元店長代行者(副店長)、中国工場の元社員などから勤務実態についての陳述書を得て、記事は事実にもとづくものであることが主張された。
結果はユニクロの敗訴。しかしこれ以降、新聞や雑誌で独自取材によるユニクロ記事がほとんど見られなくなった。「ユニクロは裁判も辞さない」という姿勢を見せることで、調査報道を萎縮させることに成功したようである。
ユニクロの柳井社長は「ユニクロはブラック企業である」との批判に対し、「限りなくホワイトに近いグレー企業」と語っている。いわくユニクロの「悪口」を言っているのは、社長と実際に会ったことも会社を見たこともない人であり、そういう人にはぜひユニクロで働いてみて、どういう企業なのか体験してもらいたいとのことだった。
この柳井社長のコメントを受けて、著者はユニクロへの潜入取材を決意する。妻と一度離婚し、再婚することで自分の苗字を妻のものに変え、ユニクロのアルバイトの面接へ。そして2015年10月、著者はユニクロ〈イオンモール幕張新都心店〉での勤務を開始する。
イオンモール幕張新都心店の時給は1000円だ。交通費は支払われない。著者はアルバイトとして、商品の袋むきやレジ打ち、接客など、通常のユニクロ業務をこなしていく。激務となる11月の「感謝祭」はしかし、ユニクロ全体で不振に終わる。
ユニクロでは柳井社長が絶対的な権力を持っており、誰もそれに異を唱えない。柳井社長が下した「2年連続値上げ」という判断が業績の不振を招いたにもかかわらず、社内では誰もそれを口にすることができないのだ。
加えてユニクロはことあるごとに「会社の倒産」を口にして、人件費を削ろうとする。繁忙期には過酷なシフトが勝手に組まれる一方で、閑散期には出勤日を大幅に減らされてしまう。
さらに感謝祭の不振にもかかわらず、本部からは商品が販売計画通りに送られてくる。バックルームには在庫が積み上がり、業務に支障をきたすようになっていく。しかもユニクロの商品は工場からの買い切りであるため、返品もできない。在庫は売れるまで値下げして売り切られる。商品が売れなければ新商品が置けないからだ。現場から聞こえるのは悲鳴である。
著者は2016年6月、〈ららぽーと豊洲店〉での勤務を始める。ららぽーと豊洲店は繁盛店で、時給も1150円と他店より150円高い。しかしそのぶん人手不足に陥っている店舗であった。そのため日本語力に疑問のある外国人アルバイトも多くいた。
著者がららぽーと豊洲店にいたとき、店舗監査が入った。本部からの監査員が、店内の写真をくまなく撮っていく。店内の商品陳列や金銭管理の帳面などをチェックし、それぞれの店舗はA(最高評価)からD(最低評価)までの評価を受ける。店舗としてはこの監査に合わせて急いで店舗を整えることになるため、スタッフの作業は必然的に増える。
またユニクロでは「守秘義務」「機密情報」といった言葉が頻繁に聞かれる。
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