アマゾンが掲げる使命は、「地球上で最もお客様を大切にする企業」である。常に最安値で、迅速に顧客に商品を提供しようとしている。そしてアマゾンの創業者ジェフ・ベゾスは、自社の業態を「ロジスティックス企業」と定義している。
こうした使命を果たすために、同社は試行錯誤を繰り返し、有望なビジネスモデルのみを残してきた。そのビジネスモデルを水平展開することによって、他社も巻き込むビジネスのプラットフォームをつくり、自らがルールの支配者となる。このようにしてアマゾンは、数々の事業の覇者になってきたのである。
それでは同社の事業のルーツであり、売上の半分を占める「小売り」事業について見ていこう。アマゾンのネット通販のポイントは、「大量の品揃え」「安価」「手続きのシンプルさ」である。
大量の品揃えはいうまでもない。それを支えるのは、自社の直販のほか、アマゾン以外の外部事業者が出品できる「マーケットプレイス」というサービスだ。いわゆる仮想商店街ととらえればよい。ただし他と違うのは、消費者が他の出品者の商品も、アマゾン直販の商品と同じフォーマットで購入できるという点である。
他の仮想商店街の多くでは、消費者は商品の代金を出品業者それぞれに直接支払う。これに対しアマゾンでは、支払いを一元管理している。そのため、消費者はクレジットカード番号を各出品業者に知らせることなく、安心して買い物ができるというわけだ。
では、時には競合関係になりかねないアマゾンのマーケットプレイスに、なぜこれほど多くの外部の企業が出店するのだろうか。出店を促す仕組みが「フルフィルメント・バイ・アマゾン」、略してFBAと呼ばれるものだ。
このサービスを使えば、商品の保管から注文処理、出荷、決済、配送、返品対応まで、アマゾンがまとめて代行してくれる。店舗や自社のECサイトがなくても、アマゾンの倉庫に預けるだけで、あとはアマゾンが自社商品を売ってくれるという仕組みだ。中小・零細企業でも、国境をまたいで輸出ビジネスを簡単に開始できるのも、この仕組みのメリットだ。
しかし、良いところばかりではない。たとえば、ある出店企業がアマゾンの扱っていない商品を売り、それがヒットしたとしよう。支払いを管理しているアマゾンにはその情報は筒抜けである。そのため、アマゾンはその商品を売れ筋と判断し、直販に動く。しかもアマゾンはどこよりも低価格で商品を調達できる。かくして、中小企業はそれに合わせて値下げをせざるをえない。体力勝負ではアマゾンにかなうはずがないからだ。アマゾンはこうした徹底した値下げ攻勢で、結果的にライバルを潰してきたのである。
アマゾンは「常に最安値で、迅速に顧客に商品を提供する」ために、巨額な投資を惜しまない。ではどうしてそのような巨額投資ができるのだろうか。その鍵を握るのが「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」である。
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