著者とキーホールの創業者ジョン・ハンケは、もともとテキサス大学の同級生だった。二人は卒業後も、プライベートやビジネスを通じて交流を続けていた。
転機となったのは1999年だ。シリコンバレーで働いているジョンから、「見せたいものがある」という電話が入った。すると間もなくジョンは巨大な機材を抱え、著者のいるテキサスにやってきた。
彼が見せたのは地球の映像だ。だがただの地球ではない。住所を打ち込むと、その場所がズームされた。「一体何が起きているんだ!?」著者は衝撃を受けた。聞けばジョンは、この技術を使って起業したのだという。会社名は「キーホール」、アメリカのスパイ衛星の名前が由来だ。もともとはイントリンシック・グラフィックスというスタートアップが手がけていたのだが、収益化の難しさから開発が頓挫。ジョンがそれを引き継いで事業化したというわけである。
著者は興奮しながらも、たしかに収益化という点では疑問を覚えた。しかも当時は、収益化への道が見えにくいスタートアップは評価されにくい環境だった。まさに起業するうえでは最悪のタイミングである。案の定、資金調達は難航した。
ジョンは一緒に働かないかと著者を誘ったが、著者がキーホールで働けるかどうかは、資金調達の結果次第だった。最終的に資金調達が完了したのは2001年1月だったが、この頃すでに著者はボストンでマーケティングの新しい仕事に就いており、ちょうど慣れ始めた頃だった。給料が良かったこともあって、ジョンの会社へ行く気持ちはあまりなかったのが本音である。
ところがインターネットバブルの崩壊の影響を受け、著者はボストンの会社を解雇されてしまった。著者が本格的にキーホールを手伝い始めるのはこの頃だ。ちなみにこのときはまだボストンにいて、リモートワークという形態をとっていた。
キーホールは当初、コンシューマーをターゲットにしていた。だがインターネットバブルの崩壊を受け、新たなビジネスモデルが必要になる。
著者はGISに目をつけた。GISとは地理情報システム、すなわち位置情報に関するデータを作成したり、分析したりするためのエンタープライズ向け地図ソフトウェアのことである。当時のGIS市場はエスリ(Esri: Environmental Systems Research Institute)という企業が独占しており、ジョンはあまり乗り気ではなかった。だが著者は、キーホールには彼らにはない優位性があると考えた。エスリは使い方が複雑で、すぐに使えるデータがなく、遅い。それに比べてキーホールは使い方が簡単で、数テラバイトに及ぶデータをすぐに利用でき、圧倒的に早い。
法人向けのGISサービスとしてキーホールのプロダクトを打ち出せば、すぐに売上が立つかもしれない。B2Bモデルにピボットしたキーホールは、さまざまな市場に売り込みを始めた。するととりわけ不動産業界で、大きな手応えが感じられた。
それでも「コンシューマー向けにも展開したい」という想いは消えず、グラフィックカード会社と業務提携して、コンシューマー向けの「アースビュアーNV」も開発。するとこれがよく売れた。またこのとき日本での配信パートナーも獲得し、扱える画像データを世界規模に広げていく。
とはいえ相変わらず資金繰りは苦しいままだった。友人や家族から資金調達をしたり、社員の給与を大幅にカットしたりしてなんとか延命していたものの、あまり猶予は残されていなかった。
こうした状況が大きく変わったのは、CNNという大型案件が舞い込んできたのがきっかけだ。
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