安全基地(セキュアベース)とは、「守られているという感覚と安心感を与え、思いやりを示すと同時に、ものごとに挑み、冒険し、リスクをとり、挑戦を求める意欲とエネルギーの源となる人物、場所、あるいは目標や目的」を指す。
強力なセキュアベースは人である場合が多い。だが不安を克服させ、挑戦への意欲とエネルギーをもたらすものならば、なんでもセキュアベースとなる。たとえば場所や目標もセキュアベースになりえるし、国や宗教、神、イベント、グループ、あるいはペットもセキュアベースとなるかもしれない。
セキュアベース・リーダーシップとは、「フォロワーを思いやり、守られているという感覚と安心感を与えると同時に、ものごとに挑み、冒険し、リスクをとり、挑戦を求める意欲とエネルギーを持たせる。そうすることで、信頼を獲得し、影響力を築く方法」である。
フォロワーと絆をつくると同時に、フォロワーや組織を目標に向かわせる。絆を通じて安全を提供し、可能性に目を向けさせることで、リスクをとることを促すのだ。
セキュアベース・リーダーシップの最初の一歩は、「絆の形成」によって信頼感を生み出すことである。ここでいう信頼感とは、「リーダーがフォロワーの最善を考えて行動する」こと、そして「フォロワーにとって適切な挑戦のレベルをリーダーが把握している」ことで形成される。
著者らは世界中の企業幹部にインタビューやアンケートをおこない、セキュアベース・リーダーの9つの特性を次のように特定した。(1)冷静でいること、(2)人として受け入れること、(3)可能性を見通すこと、(4)傾聴し、質問すること、(5)力強いメッセージを発信すること、(6)プラス面にフォーカスすること、(7)リスクをとるように促すこと、(8)内発的動機で動かすこと、そして(9)いつでも話せることを示すことである。これらの9つの特性は個人においても組織においても効果を発揮する。
たとえば多くの高業績のリーダーが、(1)冷静でいることの重要性を口にしている。プレッシャーにさらされているときでも、落ち着いていて頼りにできる存在が、セキュアベース・リーダーだ。この特性を伸ばすには、「気分を変える」、「なにをどのように言うのかに注意する」、「マインドフルネスの練習をする」といった行動があげられる。
セキュアベース・リーダーシップは、「絆」の形成、「悲しみ」と向き合うこと、「心の目」の形成、「勝利を目指す」アプローチからなる。
なかでも絆は重要だ。仕事において無視されがちなのは、「思いやり、挑ませる」うちの「思いやる」部分だからである。リーダーが厳しい規律を設け、目標に集中したとしても、人と人とのあいだに絆がなければ、おそらく成功はしない。
いままで一緒に仕事をしたリーダーのなかで、もっとも勇気を与えてくれたリーダーは、温かく、親しみやすく、熱意があり、厳しいが勇気をくれる人だったのではないだろうか。非常に優れたリーダーは、他者と単につながるだけでなく、感情面で強い絆を結ぶことができるのだ。
リーダーとして目指すべきは、フォロワーと友だちになることではなく、絆をつくること、思いやること、そして鼓舞することである。業績に与えるインパクトを考えても、絆の形成による信頼感の獲得は、最優先で取り組むべきだ。セキュアベースとなることで、リーダーはフォロワーの驚くべき可能性を引き出す。そしてそれによって生産性ややる気を高め、結果を出すのである。
前述した9つの特性のうち、とりわけ絆の形成に役立つのは、(2)人として受け入れること、(3)可能性を見通すことである。
絆を形成するうえで、「悲しみ」と向き合うことは必須だ。それは変化と成長のためのプロセスでもある。
ところが多くの人は喪失や悲しみをタブー視し、重要なことにもかかわらずうまく対処できていない。重大な喪失は、たとえそれが個人的なものだとしても、リーダーとしてのパフォーマンスにかならず影響するものだ。セキュアベース・リーダーとして仕事をするには、自分の喪失を認識し、それをきちんと悲しむ必要がある。逆にいえば、喪失という重荷を下ろさなければ、絆をつくるのに必要なエネルギーは手に入らないし、他者を励ますこともできない。
フォロワーが喪失を経験した際は、それが私的なものでも仕事に関係したものでも、セキュアベース・リーダーは力を貸すべきである。悲しみの解決は、モチベーションと熱意を高めて、より早く結果を出すうえで欠かせない。そしてイノベーションや企業の存続に必要な変化を起こすためにも重要である。
悲しみと向き合うプロセスをサポートするには、まず自分が本当にその人にとってのセキュアベースであり、その人と絆で結ばれているかどうかを確かめなければならない。そうでなければせっかく力を貸しても、おせっかいだと受け取られかねないからだ。精神面や実務面で、自分が相手との対話に適した状況であることを確認し、二人きりになれる場所と時間を確保するべきである。
フォロワーの悲しみに対処するうえで重要な特性は、(4)傾聴し、質問すること、(5)力強いメッセージを発信することだ。
「心の目」とは、人がどのように世界を見ているかを意味する。あらゆる出来事や経験、課題やチャンスをどう解釈するかは、心の目にかかっている。人生で起きることをコントロールすることはできないが、それにどのように対応するかは選択できるからだ。
また心の目は懐中電灯のように、目を向ける方向を照らし出す。痛みや喪失など、人生のマイナス面に目を向けることもできるし、利益や進歩など、プラス面に目を向けることもできる。どこに懐中電灯を向けるかによって、仕事や人生でどれだけのことを達成できるかが変わってくる。
セキュアベース・リーダーの重要な役割は、人々の心の目を導くことだ。心の目を形成しているのは、これまでのセキュアベースである。希望や夢の背後には、これまで培ってきた経験があり、それらが性格や個性、信念や価値観を育ててきた。自分のこれまでの経験がどのように心の目を形成してきたかを理解すれば、もっと多くのことを達成できるようになる。さらに他の人たちにも影響を及ぼし、さらに大きな課題を追求するように促すことだってできるだろう。
だからこそセキュアベース・リーダーにとって重要なのは、自分の心の目を筋肉のように鍛えることだ。心の目の形成に役立つセキュアベース・リーダーの特性として、(6)プラス面にフォーカスすること、(7)リスクをとるよう促すことが挙げられる。
「勝利を目指す」アプローチとは、人々が絆をつくることを促進し、その人たちが目標を達成できるように集中させることである。
強いセキュアベースは誰もが求めている。誰もが絆をつくりたいと思い、挑戦をしたいと思っている。絆を通じた強い人間関係と、挑戦を通じた成長の両方を望むのは、人間にとって自然なことだ。
勝利を目指すときは、セキュアベース・リーダーシップのすべての要素を結合しなければならない。絆、悲しみと向き合うこと、そして心の目である。そしてそれらすべてを通して、思っていた以上の成果を成し遂げるのだ。セキュアベース・リーダーは可能性を引き出し、思いやり、挑ませる。このようなかたちのアプローチなら継続できるし、健全なかたちで高業績も達成できる。
「思いやること」と「挑ませること」は、リーダーシップにおける2つの軸だ。この2つを正しいバランスで組み合わせると、セキュアベース・リーダーシップとなる。「勝利を目指す」アプローチは、成功に必要なリスクをとることでもある。チームや組織のメンバーを目標にフォーカスさせながら、そのメンバーたちと絆を保っているとき、そのリーダーは勝利を目指している。つまり勝利を目指すとは、人間関係によく注意を払い、同時に高いレベルの挑戦をさせて、リーダーとフォロワーがともに最高の業績を上げられるようにすることにほかならない。
ゆえにリーダーは可能な限り、フォロワーの恐怖や防御の感情を取り除くように動くべきである。リーダーはフォロワーを守るためにそこにいて、同時に厳しいフィードバックと高い期待をもってフォロワーを試す。そうすればフォロワーは安全であるとともに、「試されている」とも感じる。そして自由に冒険し、クリエイティブになり、リスクをとってイノベーションを起こそうとする。
勝利を目指すアプローチにおいて、とくに重要な特性は(8)内発的動機で動かすこと、そして(9)いつでも話せることを示すことである。
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