一般的に、やる気を育てるには、お金や賞状など、相手が喜ぶような報酬を与えることが効果的だと考えられている。しかし、物質的な報酬や表面上の賞賛は、人間の本質的な「伸びようとする力」をかえって邪魔してしまう。相手を望ましい方向へ導き、やる気を育てるために必要なのは何か。それは、「教育心理学」の基礎知識と相手に対する熱意だ。
人はよく他者の「体験談」をもとにやる気を高めようとする。しかしそれは、説得力はあっても、本人以外には通用しないことが多い。他者の成功談を聞く際、「なぜそれができたのか」という、科学的に証明された理論が明確にできてはじめて、その経験が際立つのだ。
人の心をドライブするのに必要な心理学の知識を得ておこう。それらは、部下、後輩、子どもだけでなく、自分自身のやる気を育てることにも応用できる。
心理学では、「やる気」を育てるのに手遅れはないと考えられている。著者は重度のLD(学習障害)を抱えた子どもを対象に研究をしている。彼らのやる気を根気強くコントロールし、適切な支援をすれば、相当な学習成果につながることを実感しているという。人はいくつになっても「やる気が育つ」可能性があるのだ。
最近では「5歳までに英会話を始めなければ」などと、「間に合わない説」が大流行している。だが、これらは学者の行った研究の成果ではない。たしかに、早くから始めた方が練習期間は長くなり、その環境にも馴染みやすいため、上達しやすいことは容易に想像できる。しかし、「○歳までに始めないと間に合わない」ことが、脳や心の発育を根拠として実証されたわけではない。そうである以上、「可能性がある」と考えるべきだ。適切に「やる気」を高められれば、挑み続ける人間は生涯伸びていく。
目先のことを片付ける意欲である「短距離のやる気」を育てたいときは、ご褒美で釣るような「アメとムチ」による育て方を用いるとよい。よいことをしたらアメを与え、悪いことをしたらムチを与えてやる気を高める。これを、心理学では「外発的モチベーション」と呼ぶ。
この方法をうまく使いこなすコツは、ペットをしつけるイメージを持つことだ。たとえば、イヌにお菓子を見せて「お手」のしぐさができたら、すぐにそのお菓子をあげる。だが、できなかったら没収する。それを繰り返せば、イヌは「お手」を覚えられる。これは「オペラント学習」と呼ばれ、人間にも適応できる。あなたはお菓子を出し入れすることに専念しなくてはならない。相手がどう感じているかなどは深く考えず、宣言したことをドライに実行する「調教師」をめざす。そうすれば、やる気に満ちた人間を育てることとは異なるが、あなたの希望通りの人間が完成するだろう。
しかしながらアメとムチは、人に適用する際、注意を払う必要がある。なぜならアメは一度与えたら、永久に渡し続けなければ、その効果が持続しないためだ。また、人はその実績を積み上げてきたことに対する「ベテラン料」を希望し始める。増額を続けないと、外発的モチベーションが上がらない。しかも、相手が飽きる前に、永久にアメを増やし続けることが求められる。
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