本書は「センスのいらない経営」のエッセンスの解説から始まる。そのキーとなるのはテクノロジーである。
これまでテクノロジーは、時に暴力的にビジネスを取り巻く環境を変えてきた。今ではテクノロジーの進化と普及によって、「人間の仕事が機械に奪われる」ことまで危惧されている。この流れは個人の意思とは無関係に進化していき、誰にも止められない。
そもそもテクノロジーの本質は、その「再現性」にある。正しい設計図さえあれば、誰でも同じものを作ることができる。例えば電車や新幹線に関していえば、設計図をもとに高い性能の車両を何個も作ることが可能だ。
現代のテクノロジーはさらに進んで、かつて人間の「経験知」や「勘」、つまりセンスに頼っていた部分にまで、私たちに新たな恩恵をもたらしている。以前は人間の「経験知」や「勘」による判断に依存していた列車走行中の異常などは、テクノロジーによって、はるかに正確に検知できるようになってきた。このようにして人間は、センスからも解放されてきたのである。
テクノロジーは、人間の脳の学習機能にかなり近づいてきている。機械学習の進歩はめざましい。機械は膨大なデータを与えられれば、自分で特徴を学習し、適切なアウトプットまで行えるようになった。
しかし当然、データさえ大量にあれば機械が何でもしてくれるわけではない。人間の重要な仕事は、機械に適切なデータと目的をセットすることである。また、機械がアウトプットした答えも、人間が統計的に評価する必要がある。こうしたことが人間の重要な仕事となる。
機械が得意とするのは、大量のデータを学んで、未知の状況に対して適切なアウトプットをすることだ。しかし、大量のデータというのは、過去のデータに他ならない。過去に学ぶべきデータがない分野では、機械はほとんど力を発揮できないのである。つまり、いくらテクノロジーに精通していても、それだけではテクノロジーを駆使した経営は難しい。
何を機械に任せ、何を人間が行うべきか。これを的確に線引きできてはじめて、経営にテクノロジーの力を活かすことが可能となる。その上で、理念や目的を掲げ、それに沿って経営判断をくだすことも、人間だからこそ担える役割であり価値である。
人間が意思決定を行い、そこで設定した目的を、機械を使って最大化できれば、利益も最大化していく。こうした循環がうまく回れば、経験や直感に優れた、いわばカリスマ経営者がいなくても、事業を成功に導けるといえるだろう。
ここからは、不確実性の高い現代の時代考証と、経営者が担うべき役割や仕事にスポットライトを当てる。
現代は変化のスピードが速く、ライフスタイルや価値観の多様化により、人々のニーズも多様化している。こうした「不確実性の高い時代」には、潜在ニーズを知ることが重要となり、これこそが「正解」だといえる。そんな時代には、とにかく「やってみる」という実験をくり返せる「手数の多い人」が勝者になる。もちろん、手数を増やすだけではだめで、実験後には結果の検証が必要となる。
失敗した場合には原因を突き止める。そして、その問題を解決する方法を見出して、また実験をする。こうしたトライ&エラーをくり返してはじめて、潜在ニーズを掘り起こせる。
「判断」と「意思決定」は異なる。判断材料が揃っており、後はそれに基づいて機械的にどういったアクションをとるかを選択すればいいという状況は、「判断」にあたる。この「判断」では、正しいかどうかを考えるのは不毛であり、時間をかけるべきではない。時間がかかるのなら、それは判断基準が明確でないからだ。
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