ヒットの設計図

ポケモンGOからトランプ現象まで
未読
ヒットの設計図
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ヒットの設計図
出版社
出版日
2018年10月15日
評点
総合
4.0
明瞭性
3.5
革新性
4.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

「ヒットの設計図」が本当にあったなら、多くの人が飛びつくことだろう。しかしみんながヒットの仕組みを理解すると、今度はそれが普通になってしまい、そこからまた頭一つ抜け出さなければならなくなる。

なにかをヒットさせるのは難しい。本書でも過去のヒット作をもとに、ヒットに関するさまざまなセオリーやパターンが紹介されているが、やはりいたずらにヒット要素を詰め込めばよいというものでもないようだ。わかってはいたが、そう簡単にヒット、大ヒットが生まれたら誰も苦労しないというわけである。

そんな苦い思いを感じながらも、本書を楽しく読むことができたのは、ヒットを生み出した人々の物語がしっかりと、細部まで描かれているからだ。歴代のヒットメイカー達の物語、そして著者が取材を通して得た彼らの生の声がうまく解説と組み合わされており、最後まで飽きさせない作りになっている。

19世紀のブラームスの子守歌から、つい数年前のポップカルチャーまで、本書の守備範囲は相当広い。いつの時代も人々の心を掴むアイデア、作品は生み出されているが、時代によってその伝わり方は違う。本書に登場するヒット作を通して、その時代の様相に思いを馳せてみるのも面白いだろう。

著者

デレク・トンプソン (Derek Thompson)
≪アトランティック≫誌編集主任、経済・メディア関連の記事を執筆する。CBSやMSNBCなどテレビ番組への出演や、グーグルの社内プログラム「Talks at Google」での講演もこなす。≪インク≫誌と≪フォーブス≫誌が選ぶ「30 under 30(30歳未満の30人)」に選出されている。初の著書となる本作は、ダニエル・ピンクやアダム・グラントをはじめとする著名人が絶賛、≪インク≫誌と≪ライブラリージャーナル≫誌の年間ベストブックに輝くなど高い評価を得た。ニューヨーク市在住。

本書の要点

  • 要点
    1
    人は見たこと、聞いたことがあるという「なじみ感」を好みながらも、知らないもの、新しいものも少しだけ欲している。それがうまく合わさっていることが、ヒットにおける重要な要素の1つだ。
  • 要点
    2
    新しいアイデアや商品は、じわじわと広がっていく「バイラル」方式ではなく、1つの情報源から多くの人が同時に情報を得る「ブロードキャスト拡散」で広がっていく。
  • 要点
    3
    人間のグループには「ホモフィリー(同質性)」の原理が働いている。特別な共通点で結びついている小さなグループを見つけ、そこに働きかければ、ヒットする可能性が高まる。

要約

【必読ポイント!】 「なじみ感」

人はなじみのあるものを好む
oatintro/gettyimages

1860年代、ドイツの物理学者フェヒナーは「人がなにを好むか」ということに、新たな方法でアプローチした。単に人々になにが好きかを尋ねたのだ。さまざまな年齢・生活環境の人々を集め、長方形をいくつか見せて、どれが一番美しいかと感じるかを尋ねたところ、短い辺と長い辺が「黄金比(1対1.6)」の長方形がもっとも好まれるという結果が得られた。ただし別の科学者が同じ実験をしても、フェヒナーと同様の結論には至らなかった。

フェヒナーの実験は不発に終わったが、人々にいろいろと尋ねるという手法は、その後多くの実験に役立った。1960年代に心理学者ザイアンスは、意味のない言葉、でたらめな形、漢字に似た文字などを実験参加者たちに見せて、どれが好きかを尋ねるという実験をおこなった。これについては、何度実験を重ねても同じ結果が得られた。選ばれた長方形が完璧な形でなくても、あるいは完璧な漢字でなくても、実験中に一番多く見せられた形を人々は選んだのである。彼らの好みは「なじみ感」から生じたものだったのだ。

ヒットは予測できるか

音楽などのカルチャー市場において、「作品の質がヒットの度合いと比例する」と言い切れたらさぞいいことだろう。とはいえ実際にそれを論証するのは簡単ではない。パラレルワールドで同じ曲を何千人かに聞かせて、マーケティングの力なしに同じ評価が得られるかを調査できたらいいのだが、これがなかなか難しいのだ。

だがじつを言うと、パラレルワールドのようなものは存在している。「ヒット・プレディクター」などのソングテスト会社がそれだ。彼らは一般大衆が人気を決める前に、新曲を何千もの人たちに聴いてもらい、魅力度を評価してもらっている。このテストで平均65点以上あれば、ヒットの可能性があるという。

ここで注目すべきは、2015年秋の「ホット100」でトップ5に入った曲(ジャスティン・ビーバーの「What Do You Mean?」、同じくビーバーの「Sorry」など)は、一部を除いて平均75点と、ボーダーラインの65点からそこまで離れていなかったことだ。曲自体の「質の高さ」「魅力」はたしかにあるが、実際には70点台の曲が80、90点台の曲よりもヒットしているケースは多い。メロディの魅力だけで大ヒットが生まれるわけではないのである。

ヒットする曲とそうでない曲の差を生み出すのは「露出」の多寡だ。魅力度が同程度のポップソングが2曲あったとき、1つは大ヒットしたが、もう1つはほとんど注目を集めなかったというのはよくある話である。ヒット曲となるチャンスに対して、「充分に優れた」歌があまりに多すぎるからだ。ゆえに一定レベルを超えた曲であれば、本質的な魅力よりも、その曲を何回耳にするかの方が人気に直結するといえる。

流暢性と非流暢性
Antiv3D/gettyimages

単純で繰り返しの多い音楽を聴くときや、自分が賛成している政論が淀みなく語られているのを聞くときは、脳への負担が少ないので楽に感じられる。逆に拍子記号のない前衛的な電子音楽を聴くときや、間違っていると思える主張を聞くときは、脳への負担が大きいため難しく感じられる。

やさしく感じる思考のことを心理学では「流暢性」という。

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要約公開日 2018.12.18
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