バブル経済崩壊以降、日本経済の成長は止まってしまった。多くの企業は今も過去のビジネスモデルにとらわれて停滞しているし、ソニーやホンダ、トヨタ自動車、日立製作所などといった戦前、もしくは戦後間もなく設立された企業がいまだに経済の主役であり続けている。米国における、グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルなどのような新しい企業の台頭とは対照的である。米国には長寿企業も多いが、そうした企業は伝統と革新を融合させ、イノベーション経営に注力している点を強調しておきたい。
バブルが崩壊すると、日本企業は欧米の経営に学び、世界の経営の波に追いつこうとしてきた。しかし日本の経営と欧米の経営とではそもそも土壌が異なる。米国的経営手法を取り入れた企業が必ずしも業績を改善できたとは言えないだろう。
そうしたことから考えても、今の日本企業に求められているのは、自社に適した経営パタンを再発見することである。悪循環を打ち切って過去のような活気を取り戻すには、個人と組織、社会の構想力が不可欠だ。
今、構想力を考えるうえで求められる視点の一つは、その構想力が自社の経営戦略や事業戦略、「競争戦略」を超えるものか否かということだ。ある一社のためだけでない、さらに広い範囲を考える構想力が必要となっている。
もう一つは、構想力がもはや経済だけの問題ではなくなったという点だ。社会課題の解決によって企業としての競争力を高めるという次元にとどまらない。さらに広く、社会的な視点で新たな価値と収益のモデルをデザインすることが求められる。
つまり、日本企業が停滞を抜け出して再び成長するにはイノベーションが必要であって、イノベーションを起こすために必要な構想力とは、自社事業のためだけではなく社会に変革をもたらす構想を生み出し、実践する力である。
会社や経済、企業のあり方を変えるには、分析的なアプローチや個々のシステムの内部の発想だけでは足りない。構想力の働きによるしかないであろう。
構想力の働きには3つある。1つ目が「ビッグピクチャー」としての構想を描く力だ。日本国内の停滞や国際的地位の低下の背景には、グローバルな構想や、大きなビジョンの欠如がある。民間宇宙開発企業(イーロン・マスクのスペースX、ジェフ・ベゾスのブルー・オリジン)や世界経済圏構想(アマゾンや中国アリババ)などといった今世紀に入っての企業活動は、大規模で飛躍的な社会システムの変化を導いている。社会を大きく変えるような構想力が求められているといえよう。
2つ目が「ビッグクエスチョン」、つまり、よい問いを立てることで社会やビジネスについての観察、対話、推論を促し、新たな世界を考察する力だ。問題の全体像を見通したうえで問いを立てれば、他社の動きや自分の過去の経験を結び付けて仮説を得ることができよう。高いところから考えるだけではいけない。現場での事象や部分を結び付けていくことによる仮説的推論が重要となる。つまり「木を見ながら森を想像する」ということである。それを促すのがビッグクエスチョンだ。「どうしたらこの世界が変えられるのか?」という問いをベースに、現実を俯瞰しながら仮説を立ててみよう。発見を導くことができるはずだ。
3つ目が「新たなビューポイント」である。
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