いま滋賀県でもっとも人が集まる場所は、菓子製造販売業・たねやグループのフラッグシップ店「ラ コリーナ 近江八幡」(以下、ラ コリーナ)だと言われている。もともと近江八幡は滋賀県の観光地の中心地ではなく、年間八十万人が訪れたら御の字だと評されていた街だ。しかし2017年、ラ コリーナを訪れた人はなんと285万人にのぼった。
ラ コリーナの敷地は甲子園球場3つぶんほど。そこにあるのは少しの店舗と広大な自然である。店舗を増やせばもっと稼げるのかもしれないが、それはたねやの本意ではない。たねやがラ コリーナで成し遂げたいのは、「たねやの生き方」を知っていただくことなのだ。
2017年、たねやグループの売上は、和菓子と洋菓子を合わせて200億円を突破した。「お客様に手渡すところまで自分たちでやる」をモットーにしており、同業他社に比べて多くのスタッフを抱えている。全スタッフ2000人のうち1000人強が正社員だ。
しかし、10代目である著者が生まれた頃にはまだ、たねやは家族経営で細々と営業する小さなお店であった。店舗は1店舗のみで、地元・近江八幡でしか知られていなかった。それがどうして、ここまで急拡大したのか。そこには、たねやならではの秘訣があった。
たねやは当初から高級路線を歩んでいた。著者の祖父の時代には、冠婚葬祭を中心とした進物用として、商品を料理屋などに納めていたためである。そのため、高級感が求められた。高単価で売れるため、高価な食材を使って品質を上げていくこともできたし、作り手として打てる手も増えた。このことが、たねやの商いに大きなアドバンテージになっていた。
たねやには「支店出すべからず」という家訓があった。身のほどをわきまえ、本店の商いに集中すべきだというわけだ。だが著者の父親はその家訓に背き、支店を出して4店舗体制を敷いた。そして冠婚葬祭用として大口注文を受けるスタイルから店舗販売へと重点を移していった。
しかし、売上は思うように伸びなかった。そこで気付いたことは、
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