エンジニアリング組織論への招待

不確実性に向き合う思考と組織のリファクタリング
未読
エンジニアリング組織論への招待
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不確実性に向き合う思考と組織のリファクタリング
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エンジニアリング組織論への招待
出版社
技術評論社

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出版日
2018年03月08日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.5
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おすすめポイント

プロジェクトの理不尽が積もり積もった挙句、スケジュール通りに終わらない。上司あるいは部下とのコミュニケーションがうまくいかない――。ソフトウェア開発に携わるエンジニア、開発チームを率いる責任者なら、似た経験がおありではないだろうか。そうした課題をもつ人に希望を与えてくれるのが、第6回ブクログ大賞ビジネス書部門大賞の受賞作でもある『エンジニアリング組織論への招待』だ。

本書は、「不確実性に向き合う」というたった1つの原則から、エンジニアリングの課題解決を体系化していった組織論である。人間は本能的に「わからないもの」を避けようとする。それをどのように克服し、自分やメンバーとの人間関係、チームのマネジメントに活かせばいいのか。経営者とエンジニアの認識のギャップをどう埋めていくのか。「アジャイルなチーム」をめざすには? 技術的負債を解消するには? 著者は経営学や心理学、ソフトウェア工学などの知見も援用しながら、こうした大事な問いへの対処法を真摯に提示していく。

「問題解決をめざすなら、コードだけでなく、人々の思考・組織・ビジネスの『構造』こそリファクタリングしなければいけない」。著者の主張には目を見開かされ、要約者は「こんなに画期的な組織論があったのか!」と夢中になった。

エンジニア、マネージャーいずれの立場でも、組織設計・運営、開発に活かせる英知が詰まった一冊だ。生産性の高いエンジニアリング組織への道筋が、いま明らかに。

ライター画像
松尾美里

著者

広木 大地(ひろき だいち)
株式会社レクター取締役。
1983年生まれ。筑波大学大学院を卒業後、2008年に新卒第1期として株式会社ミクシィに入社。同社のアーキテクトとして、技術戦略から組織構築などに携わる。同社メディア開発部長、開発部部長、サービス本部長執行役員を務めた後、2015年退社。
現在は、株式会社レクターを創業し、技術と経営をつなぐ技術組織のアドバイザリーとして、多数の会社の経営支援を行っている。

本書の要点

  • 要点
    1
    エンジニアリングで重要なのは、「どうしたら効率よく不確実性を減らしていけるか」という考え方である。ソフトウェア開発を成功させるには、「思考のリファクタリング」が必要となる。
  • 要点
    2
    複雑な問題を簡単な問題に変換するには、「論理的思考の盲点」「経験主義と仮説思考」「システム思考」という3つの考え方が役に立つ。
  • 要点
    3
    アジャイルとは、「チームが環境に適応して、不確実性を最も効率よく削減できている理想状態」である。こうした理想状態へと前進している集団を、「アジャイルなチーム」と呼ぶ。

要約

【必読ポイント!】 思考のリファクタリング

本書の見取り図

最初に本書の見取り図を示そう。第1章では個人の思考、第2章では1対1の人間関係、そして第3・4章ではチームやプロダクトという単位で、エンジニアリングと「不確実性の削減」というテーマを掘り下げていく。さらに第5章では、より多くのチームが関わる「組織」における「不確実性の削減」について考察する。

本要約では、第1~3章からエッセンスの一部を紹介していく。

不確実性とエンジニアリング
monsitj/gettyimages

ソフトウェア開発の現場では、多くの理不尽や感情の対立が起きている。まるで人間の思考の中にバグが含まれているような状態だ。こうした状態を改善し、チームや組織を成功に導くには、「思考のリファクタリング」が必要となる。これは、脳内の無駄なプロセスを取り除き、指針をもって不確実性に向き合い、問題解決をめざすことといってもいい。

そもそもエンジニアリングとは、何かを「実現」するための科学分野である。ソフトウェアの実現における「はじめ」は、誰かの曖昧な要求であることが多い。そこから具体的で明確なアウトプットができていく。このように、実現に至るまでに曖昧さを減らし、具体性・明確さを増やす行為がエンジニアリングなのである。

曖昧さは、経済学や社会学では不確実性と呼ばれる。エンジニアリングが重視するのは、「どうしたら効率よく不確実性を減らしていけるか」という考え方である。

2つの不確実性

では不確実性はどこから生まれるのか。それは未来と他人という、「わからないこと」にある。未来は、それがやってくるまでわからないもので、行動や実験の観察によって明らかになっていく。これを「環境不確実性」という。一方、他人は、自分には理解できず、コミュニケーションを通じてしか削減できないもので、「通信不確実性」という。

不確実なものに向き合う際は不安を伴う。人は不安になると、本能的に回避か攻撃を選びがちだ。この不確実性を下げるには、情報を生み出すことが欠かせない。

これを意識していれば、エンジニアは、不確実な要求仕様や不確実な実現手段にストレスを感じることが減っていくだろう。ソフトウェアを書くこと以外に不確実性を削減する手段があれば、それを提案していくこともエンジニアリングの一部なのである。

論理的思考の盲点
SIphotography/gettyimages

複雑な問題を簡単な問題に変換していくには、次の3つの考え方が役立つ。それは「論理的思考の盲点」「経験主義と仮説思考」「システム思考」である。

1つ目は「論理的思考の盲点」である。立場の違う複数人が問題解決をめざすなかで、コミュニケーションの失敗によって論理的な思考ができなくなることがある。この限界や盲点を知るという考え方だ。

論理的思考は、「ルールと事象を正しく認知できること」「正しく演繹できること」という2つの前提が満たされたときに可能になる。そのため、自分や他者の認知がいつ、どのように歪むのかを知らなければならない。

そのうえで大事なのが、ネガティブな感情や不安を引き起こす「認知の歪み」を取り除くことである。認知の歪みの具体例としては、物事を2分法で捉える「ゼロイチ思考」、思いこんだ情報しか目に入らなくなる「選択的注目」、結論の飛躍などが挙げられる。こうした「歪み」を客観視することで、ネガティブな感情の連鎖を食い止めることが可能となる。

経験主義と仮説思考

2つ目は「経験主義」だ。人間には、どれだけ理屈で考えても答えが出ない問題に時間を費やす性質がある。不確実性を確実なものにしていくには、それを理解したうえで、実験によって知識を獲得し、「わからないこと」を行動で突き止めていくことが必要となる。要は「行動して確かめる」という発想だ。

経験主義をうまく機能させるには、「行動できることは何か」と「行動の結果起きたことを観察できるか」という2点を重視しなければならない。自分の意志で直接コントロールできるのか否か。変化が観察でき、間接的にコントロールできる可能性があるか否か。

この経験主義の生産性を高めてくれるのが「仮説思考」だ。「仮説思考」はわずかな情報から、大胆に推論を行い、その正しさを検証するという考え方である。経験主義と仮説思考は、不確実性を味方につけるうえで重要な考え方となる。

システム思考

3つ目は「システム思考」である。システムとは、全体の関係性を捉えることを意味する。人は、問題を個人の責任にしたり、全体像を捉えずに局所最適な思考をしたりしてしまう。システム思考では、それを理解したうえで、「それが全体像ではないかもしれない」「問題は関係性にあるのではないか」と、問題の構造を解き明かそうとする。対立が生じたとき、一次元上の観点から全体の関係性を把握していくことで、対立を解消に導けるのも、システム思考のメリットだ。

このように、3つの思考法を駆使することで、人間が本来もっている不完全さに対処できるようになる。

真のコミュニケーション能力とは?

先述した通信不確実性、すなわちコミュニケーションの不確実性は、情報を知っている人と知らない人を分断していく。これにより「情報の非対称性」が拡大する。人は、自分の課題を他人も把握していると勘違いしがちだ。もしくは、把握していてほしいという願望に基づいて行動する傾向にある。

また、人間の認知能力には限界がある。そのため、限られた範囲でしか合理的な行動がとれない「限定合理性」も生じる。情報の非対称性と限定合理性はいずれも、組織に潜む理不尽の増幅装置となってしまう。

こうしたことを踏まえると、真に組織に求められるコミュニケーション能力とは、コミュニケーションの不確実性を減らし、組織内での不確実性のループを食い止める能力といえよう。不確実性を下げ、秩序をつくることこそが、エンジニアリングの出発点だ。

メンタリングの技術

メンタリングで相手の思考をリファクタリング

次に、人間関係の不確実性のマネジメントに役立つ技術、「メンタリング」について解説していく。メンタリングとは、自ら考える人材をつくるテクニックのことだ。対話を通じて、メンタリングする人の思考力を一時的に貸し出し、思考の幅を広げていく。これにより、当人の認知を補正し、次の行動を促し、成長させていく手法である。

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要約公開日 2019.01.02
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