2012年10月、人工知能、コンピュータービジョンの研究者・企業に衝撃が走った。世界的なAIの画像認識コンテストILSVRC。そこで、25~26%台だった画像認識のエラー率を10%以上下げることに成功したチームが出現したからだ。それがトロント大学のジェフリー・ヒントン教授率いるスーパービジョンチームだ。
彼らが用いた手法が「ディープラーニング(深層学習)」である。この結果を受け、さらなるエラー率の低下が可能だと踏んだ企業や研究者が、ディープラーニングの研究に取り組み始めた。そして2015年には、ディープラーニングの画像認識の精度は人間以上となった。
著者は、2012年9月に日本で最初のディープラーニング企業ABEJA(アベジャ)を創業した。IT系の世界ではすでに、AppleのiPhoneやMacに搭載されているSiriなどの音声認識技術に、ディープラーニングが活用されている。また、Amazon EchoやGoogle Homeなどのスマートスピーカーにも、ディープラーニングが活用されている。このように、IT企業ではAIは以前から活用されており、それ以外のビジネスでも、AIを当たり前に使うフェーズに入っている。
Googleは「ディープラーニングは、もはや枯れた技術だ」とすら公言している。彼らの認識はこうだ。「いまになって、一般企業が導入するかどうかで迷うなんて、論外だ。なぜ活用しないのか? だって、もう枯れ始めている(十分に使われている)技術なんだから」。
従来の機械学習とディープラーニングを用いた機械学習の違いについて説明する。前者は「特徴量の抽出方法」を人が設計して入力する。これに対し、後者はコンピューターにそれを自動でやらせるという違いがある。
従来の機械学習では、たとえば犬と猫の識別をしたいなら、「犬である」あるいは「猫である」ことを指し示す特徴量を、人間が設計しなければならない。一方ディープラーニングを用いた場合だと、大量の教師データから特徴量の抽出を自動で行ってくれる。これにより推論の精度を高められるのだ。
現状では、企業利益に貢献しないAI投資・導入をしている企業が多い。その原因は、導入のROI(投資対効果)を考えずに、「AIでこんなことができる」と知って、導入に走ってしまうからだ。そうではなく、自社のボトルネックとなる経営課題を解決するためにAIを活用すべきである。
そのためには仮説を立てることが重要となる。まずは、自社の事業や業務プロセスを分解する。どの工程から付加価値が出ていて、どのあたりがボトルネックになっているか。そのうち、どの部分を変えると利益が伸びそうか。こうした点を、実証実験を通じて検証していく。
小売・流通業の例を挙げよう。ショッピングセンターの来店客の人数を詳細にカウントするために、人を置くとする。時給1000円で1日1万2000円。1か月36万円。10カ所でカウントするならば、1か月で360万円、1年で4320万円になる。
一方、AIを活用すると、1台あたり月1万6000円でカメラを取り付けて、来店客の人数をカウントできる。10カ所で16万円、1年で192万円。こうした結果を見ると、「コスト・正確性・データ量」の観点から、人間よりもAIの方が優れていることは明らかである。
画像、音声などの非構造化データは、従来は自動判定が難しいものだった。それがディープラーニングによって、高い精度で自動的に判定できるようになり、ビジネスの現場でも活用され始めている。
小売店の例を見ていこう。ディープラーニングで「顔データ」などの非構造化データを分析する。そうすれば、来店客の属性だけでなく、店内のどこで立ち止まっているのか、どういった導線行動を取っているのかがわかる。そこから「買わなかった」理由を推定できる。
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