AI技術の活用は、日本企業においてすでに多方面に広がっている。AIを実現する本命の技術がディープラーニングだ。ディープラーニングとは、脳の仕組みを模倣して作られた機械学習の一種である。機械学習では、収集したデータから機械自身に法則を学習させる。
2000年代以降、コンピューターの性能が向上し、大量のデータ処理が効率化できるようになった。それに伴い、ディープラーニング研究は飛躍的に発展した。
現在のディープラーニングは、正解となるデータを大量に用意する「教師あり学習」が主流である。しかし、プロ棋士に勝利した「アルファ碁」の次世代にあたる「アルファ碁ゼロ」は、正解データがない状態で試行錯誤した。そして、成功すれば報酬が与えられて賢くなる「強化学習」という「教師なし学習」の一種を採用し、その可能性を内外に示した。
これが「AIが人を超える」ことの象徴的な事例とされ、人の仕事がAIに取って代わられるという考え方を広めてきた。
企業がディープラーニングを中心とするAI技術をビジネスに活用するためには、AI技術の発展について見通しを持つ必要がある。多くの企業で参照されているのが、東京大学大学院工学系研究科特任准教授の松尾豊氏が作成した、「ディープラーニングをベースとするAIの技術発展」(ロードマップ)だ。2030年以降に向けてどんな技術が実現し、どんな応用例が生まれるかが、2007年から予測されている。
(1)画像認識:画像認識の精度が一気に向上しており、技術はコモディティー化している。応用例は「画像による診断」や「広告」である。
(2)マルチモーダルな認識:松尾氏によればマルチモーダルとは、「映像、音、各種センサーなどの情報を複合的に扱うこと」だという。それにより行動予測や異常検知が実現する。応用例としては、「防犯・監視」、「セキュリティー」、「マーケティング」が挙げられる。
(3)ロボティクス:「環境変化にロバストな自律的行動」が実現することで、「自動運転」、「物流」、「農業の自動化」、「製造装置への効率化」への応用例が考えられる。ロバストとは、外的要因の変化に対して柔軟に対応できることを意味する。2020年前後の実用化が想定されている。
(4)インタラクション:文脈に合わせた環境認識・行動ができる段階で、家事、介護、感情労働の代替などが実現する。
(5)シンボルグラウンディング:本当に意味を理解した翻訳が実現し、海外向けECが盛んになる。
(6)知識獲得:秘書やホワイトカラー支援が実現する。これが2030年頃と予想される。
本書では、現段階で実用化が進み始めている(1)~(3)の事例を中心に扱う。
松尾氏によると、ディープラーニングは「ジェネラル・パーパス・テクノロジー(GPT=汎用目的技術)」の1つではないかという。汎用目的技術とは、原理が単純かつ汎用的でさまざまなことに利用できる技術のこと。古くは動物の家畜化や筆記、印刷にはじまり、鉄道、電気、自動車などを含む。最近ならインターネットもその技術だといえばイメージできるだろうか。
ディープラーニングがインターネットの20年先を追いかけているとすれば、ディープラーニングの活用シーンが大きく広がるのはまさにこれからだ。
日本企業がAI技術を取り込み、世界で勝ち残るためには、予選段階といえる(3)ロボティクス、(4)インタラクションで、プレゼンスを高めることが大事だ。ロボットや自動車などのハードウェア産業は、日本企業に優位性がある。
ところが、日本では、ディープラーニングの活用を推進できる人材が不足している。データサイエンティスト協会は、ビジネスへの応用を見込んだデータサイエンティストに必要なスキルとして、次の3つを挙げる。
3,400冊以上の要約が楽しめる