20世紀の経営資源は「ヒト、モノ、カネ」だったが、21世紀の経営資源は「ヒト、ヒト、ヒト」である。会社の方向性を転換するほどの才能をもつ尖った人材を発掘し、育てることが、重大な経営課題の1つとなっている。
日本企業の現状とはどのようなものか。まず、他国と違って、まだまだ終身雇用が続いている。また、経済成長期に大量に雇用された「高齢化した人たち」に対する有効なソリューションを見出せていない。早期退職を促しても、自由に解雇できず、「雇用の膠着化」が起きているのだ。
日本企業の人材戦略の根本的な問題は何か。それは、新卒一括採用と自前主義によって、人を抱え込んでいるという点だ。これにより、ビジネス環境の急激な変化に対応できないままでいる。
こうした状況にかかわらず、日本は非正規雇用を正規雇用に押し上げようとしている。しかし、労働市場の固定化は、今の日本にはマイナスばかりである。「みんなで頑張ればどうにかなる」という時代は過去のものとなった。20世紀の経営観・人材戦略から一刻も早く脱却しなければならない。
本来日本が追求すべきは、デンマークやスウェーデンなど、北欧で1990年代から進められてきた労働市場改革のカギとなった「フレキシキュリティ」である。フレキシキュリティとは、解雇規制を緩和して雇用の柔軟性を高める一方、効果的な失業対策で労働者の生活の安定を保障しようという考え方を指す。これは、企業側にはフレキシビリティ(柔軟性)、労働者・社会の側にはセキュリティ(安定)のメリットをもたらす。
2003年にドイツのシュレーダー首相は、まさにこれに則った労働市場改革と社会保障改革を断行。ドイツ経済を回復へと導いた。企業が人員を整理しやすくした一方で、職業訓練や就労支援を国が積極的に進めたことが奏功した。日本でも、この「シュレーダー改革」が早晩必要になるだろう。
21世紀の人材戦略は「軽く、薄く、少なく」以外にありえない。これから15年後には、ほとんどの業界に、旧来の体制が限界を迎える時期、すなわち「破断界」が訪れる。そして20年後には、さまざまなビジネスが消滅していることが予測できる。
こうした状況下で人を抱えると、方向転換が難しくなってしまう。必要なのは、小回りの利く状態にしておき、自由に方向転換できるようにすることだ。よって、本当に必要な人材(コア社員)に絞り込んで人材を抱え、それ以外は外部人材の活用やアウトソーシング、自動化を検討するという発想が求められる。
デジタル・ディスラプションの影響により、エクセレント・カンパニーの時代は終焉を迎えた。これを象徴するのが、エクセレント・カンパニーの代表格であったGE崩壊の危機である。
これからは、組織や技術、資本よりも、たった一人の個人がブレイクスルーを起こせる時代だ。ビジネスで企業が勝つ条件は、多くのエクセレント・パーソン、すなわち傑出した個人を獲得することである。個人にとってはエクセレント・パーソンをめざすことが、生き残りを左右する条件となる。
人材戦略を立てる際、経営者はまず、自社をどんな会社にしたいのか、明確なビジョンを描かなければならない。そのうえで、必要となる人材像を明確にし、「人材スペック」を設定する。こうして経営戦略と人材戦略を整合させるのだ。
つづいて、この人材スペックに適合する人材の採用・育成戦略を練り、実行するのが、人材マネジメントの仕事となる。この順序を間違えてはいけない。
経営者の特権は人事である。では人事という重要な業務に、経営者はどれくらいリソースを割くべきか。著者の経験では、経営者は自分の時間の2割以上を後継者・リーダー育成に使うべきだという。重要なのは、事業を成長させ、会社の方向転換をめざせる人材を、経営者自ら発見し、選択することである。
コア人材に関しては、年齢や国籍、性別を問わず、世界中からLinkedInなどを使って発掘することが求められる。また、そのために人材データベースを構築することも有用だ。
21世紀型の人事戦略をとっている先駆企業の例として、サイバーエージェントを紹介する。
同社がとっている戦略は、「オーガニック・グロース(自立的成長)」というものだ。まずは新規事業をたくさん立ち上げて、経営判断に社員を巻き込んでいく。撤退ルールを明確化しておき、うまくいけば増資する。ダメならすぐに撤退し、失敗しても社員にはセカンドチャンスを与える。こうすると事業と人材を一緒に育てられる。この仕組みを回せば、社員の「決断する経験」が増え、経営人材の育成にもつながっていく。
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